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61話 境界線。


 61話 境界線。


「残念やけど、野球で『黙らなアカンってルール』はありえん。もし、そんなルールがあるなら、『お前らのことを、やかましく応援しとる観客席の連中』も黙らせるべきや。守っとる連中の『バッチこーい』ってのも禁止やな。小・中でつぶやき戦術がほぼ禁止みたいになっとるんは、『少年野球限定のマナー』という特殊領域の話。つまり、今は通用せん。いま、ワシらがやっとるんは少年野球やない。命の奪い合い――つまりは、純粋な殺し合いや。弱肉強食の世界に、マナーもへったくれもない」


「……」


「さあ、高めの吊り球の次は、やっぱり、低めやろうな。たぶん、アウトローや。準備せぇ。抜いた球がくる可能性が高いから、少し溜めた方がいい」


 実際には、ストレートの高めだった。

 先ほどよりもわずかに低く、ストライクゾーンに入っていた。


「――ぅ」


 バットを振る事すらできず、見送り三振になってしまった相手バッターは、一度、トウシを睨みつけてから、ベンチへと戻っていった。


 その後ろ姿を見ながらトウシは、

 虹宮にボールを返球しつつ、心の中で、


(リトルやシニアの全国経験者いうても、所詮は、人生経験不足で未成熟極まりない中学生。……それに、この試合は、ガチで命がかかった人生最大の大勝負。集中力を歪ませるんは容易い)


 その後も、2番打者・3番打者と、景気よく三振でしとめてみせるトウシ。

 ベンチに帰りつつ、トウシは、


(ワシが捕手をやっとる限り、あの程度の連中が相手やったら、ストレート一本でも、どうにか出来る。……問題は点の取り方やな……)



 ★



「――おい、このままだと、永遠に試合が終わらねぇぞ……」


 8回まできたところで、ふいに、誰かがボソっとそうつぶやいた。

 スコアボードには0が並んでいる。

 両者、一歩もゆずらない投手戦が続き、観客席もベンチの中も、息が詰まり切った地獄のような状態になっていた。


 観客席から届く応援は、みな、喉が枯れ切っているのか、雑音のウェーブになっており、

 精神的疲労で疲れきっている両者ベンチはお通夜のようになっていた。



 その奥で、トウシは、ベンチに深く腰かけ、天を仰ぎ、


(完全にイカサマくらっとるな……)


 疲弊した顔をして、


(相手のドラゴンスーツ、明らかに、毎イニング、スペックが向上しとる……スイングの切れ・動体視力・反応速度、全部……くそが……)


 まるで、『トウシの限界』でも測っているかのように、

 『相手が纏っている携帯ドラゴンの性能』は、少しずつ上がっていた。


 他の者は、『トウシ&虹宮バッテリーが、三振ショーを繰り広げている』という結果を受け止めているだけなので、気付いていないが、

 実際のところ、


(アカン……もう、虹宮の球では通じん……次の回でも、これまで同様の上昇率でスペックが向上しとったら……もはや、対処は不可能……)


 8回裏の守備が終わった段階で、すでに限界スレスレ一杯に達していた。

 ここまで、なんとか、ハッタリをかまし、まどわし、ダマし、かわし、いなし、

 ――と、どうにかこうにか切り抜けてきたが、


(次の回はもうかわしきれん……せめて、カーブか縦スラでもあれば、どうにかなるけど……)


 攻撃中、ブルペンで、何度か練習させたのだが、




『うーむ、どうやら、おれは、ノゴローくん体質らしいね……まさか、ここまで変化球オンチだったとは……自分で自分にビックリだよ』




 といった具合で、ストレート以外は投げられそうになかった。




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― 新着の感想 ―
[一言] 新D章59話 先行は、トウシたちのチーム。 新D章61話 8回表の守備が終わった段階で、すでに限界スレスレ一杯に達していた。 新D章62話 (あんだけしんどい思いをして、どうにか8回表を…
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