23話 200億年の旅路。
23話 200億年の旅路。
――『舞い散るセンエース』は、バーチャとの闘いを経てたどり着いた『神の世界』で、それまでとはレベルの違う無茶をした。
『分不相応にも憧れてしまった神界の深層の頂点たる究極超女神シューリ・スピリット・アース』を守るため、
『ソウルゲート』と呼ばれる、
『神が神生で一回だけ使える裏技』に飛び込んだのだ。
『ソウルゲート』は、簡単に言うと、精神と○の部屋。
生涯で一度だけ使えるチートボーナス。出現するタイミングは完全にランダム。
イメージ的には壊れた『どこで○ドア』。
ある日、それが、唐突に、なんの前触れもなく、目の前に現れて、聞いてくるのだ。
『0秒で、好きなだけ修行できる空間に連れていってやる。その空間では、どれだけの時間を使っても、外の経過時間は0だ。さあ、何年修行したい? 好きな時間を言ってくれ。無限でもいいぜ。ただし、精神が崩壊したら灰になるから、選ぶ時間は慎重にな』
神でも1万年が限界といわれているソウルゲートで、センエースが過ごした時間は――200億年。
※センエースの目の前にソウルゲートが出現するまでの簡単な流れ。
『その究極超邪神って輩を殺さないとシューリが死ぬ?』
『へっ。そんな、ワケの分からん不条理はゆるさねぇ』
『シューリ、俺がお前を守ってやる』
『無理? 究極超邪神には誰にも勝てない? それが、コスモゾーンの法則?』
『はっ、わらわせんじゃねぇ。いいか、コスモゾーンなんざ、親戚のオッサンと変わらねぇんだよ。常時ヘべレケみたいなもんで、ぶっちゃけ、ちょっと何言っているかわからねぇ』
『そもそもの話、俺を誰だと思ってやがる』
『あー、あー、あー、あー、あー、もういい、もういい、ごちゃごちゃわめくな!』
『俺がなんとかしてやる! 心配すんな、俺に勝てない悪は、あんまりない!』
――究極超邪神登場――
『はははっ、思ったとおり、大した敵じゃねぇ!』
『さあ、絶望を数えろ!』
――やべぇ、強ぇ!
『おぃ、あいつ、どんだけ殴っても、ビクともせんぞぉ!』
『勘弁――すいませっ、ほんと、ちょっと……ソンキー、シューリ、助けてぇええ!!』
↑
だいたい、このへんで、ソウルゲート出現。
流石に、現場は、もうちょっと絶望感と悲壮感で溢れていたが、『流れ』と『セリフ』だけで言えば、これで何も間違ってはいない。
センも『ソウルゲートが生涯で一度しか使えない』というのは知っていたから、『このまま何もできずに殺されるくらいなら』と思ってしまった。
結果、勢いあまって『200億年』という無茶な設定をしてしまったのである。
★
・一日目。
『まさか、このタイミングでソウルゲートが開くとは……激運にもほどがあるぜ』
『これで、まだ可能性は残った。ただ200億年は、ちょっと無茶な設定にしすぎたか?』
『いや、そのぐらいやらねぇと、あれには勝てねぇ』
『ソンキーのボケが……あのイケメン、顔だけで、クソの役にもたちゃしねぇ。あっさり、ふっとばされやがって』
・2日目
『へぇ、ここって、すげぇ施設がいっぱいあるんだなぁ。うわ、CPUとか創れるんだ』
『とりあえず、じゃあ、存在値10兆くらい、戦闘力ソンキーくらいで……ポチっとな』
『おお、おもしれぇ。これなら、200億年くらい余裕だろ!』
・10日目
『耐えられる。俺は普通の奴らとは違うから。孤独は友達! 孤高は親友!』
『……なんか……ここにきてから、独り言がすげぇ増えた気がする……』
・20日目。
『時間の事は考えるな。それよりも修行だ』
・一ヶ月後
『……これを200億? え、マジで?』
『だって、今で一カ月だよな。一カ月……』
・半年後
『まだ半年? ……ウソだろ? 外にいた頃は、半年なんてあっという間にすぎてたじゃん』
・一年後
『……俺は強くなっている……はずだ、うん』
『何も考えるな。ネガティブを殺せ。俺は強くなっている。間違いなく強くなっているはずだ』
・2年目。
『シューリに会いたい。ソンキーともケンカしたい。平、ゾメガ、ミシャ……ぐすっ……』
・3年目。
『あと199億9999万9997……おぇっ』
・5年目。
『やべぇな、これ、マジで、頭がおかしくなるぞ』
『どこのダレだよ、1万年でギリとかいったバカ。時間なめてんじゃねぇぞ。1万年なんか耐えられるわけねぇだろ。1万どころか10年でも危ういわいっ』
・7年目。
『ざっけんじゃねぇ! 何の意味があるんだ! この世界が【水槽の脳】だってことはもうわかったっつってんだろぉお! 俺は【究極超神化5】が使える神なんだぞ! あああ!』
・8年目
『はぁ、はぁ、はぁ……なんで、なんで、なんで、俺がこんなめにぃ……ぃいいい』
・10年目。
『あああああああああああああ』
『@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@』
『ぐがっけがっ……ぎうぎ……や、ヤバイ……コノママじゃ……壊れる……』
・11年目。
そして、センエースは、喋るのをやめた。かわりに瞑想をはじめる。
・50年目
センエースの瞑想は、無明の域に至っていた。本当の静寂の中では、全てが確かな『フレーム』をもつ。ミクロでは煩雑に見えるけれど、マクロでは『円』になっている配列。それは無ではない。むしろ、無限なのだ。完全に見失う事で、センは、一歩、先に進む。
・100年目。
現象の背後に届く。超大統一の理。
全ては一つだった。世界は、ただの鏡だった。
『俺は……愛されたかった……』
ただ、ひたすらに、静寂を追い求めた結果、精神の深層が自我をさらけ出す。
・200年目。
まだ瞑想は続けていた。センは、『心の作用』について、理解しかけていた。
真理は、近づくほどに遠くなる。まだ見えない。現象の最奥は遠い。
・300年目
もっと奥へ。もっと、もっと、奥へ。
――長き瞑想の果てに、真理は『ない』と理解できた。
心は、『ここ』になかった。時間とは『今』しかない偶像。
『命』は、ただの器。その中にあるのは、ほんのわずかなフラグメント(存在証明)。
・500年目。
『うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおい!』
『ちょっと待てぇえええ! まだ、500年かぁああああい!!』
『なんか、悟った的な感じになったけど、まだ500年?!』
『もういいだろ! そこは、もう、【気付いた時には、200億年が経っていた……】ってなるパターンだろぉおおお! 空気を読めよ!! 流れを感じ取れよぉお!』
『あと、199億9999万9500年?! アホかぁああああ!!』
・1000年目。
センは、また瞑想に戻っていた。『悟った気になる』のはもうやめた。
賢しらに、哲学を振り回しても何にもならないと理解した上で、
……センは、本当に悟ってみようと思った。
・2000年目。
センはついに瞑想を終えて立ちあがった。
『俺、なんでここにいるんだっけ……』
自分自身に本気で問いかける。
『ああ、シューリを助けるためか』
答えはアッサリと出た。その事に、センは驚いて苦笑した。
『なんつーか、俺……あいつに対してマジなんだな……』
『あいつの何がそんなにいいんだ? 顔はいいけど、性格は最悪だぞ。あんな女、死んだ方が世界のためだろ。うん、間違いない。間違いない……が』
センは笑う。静かな微笑み。
『だから、なんだ? 世界がどうとか、知ったことかっての。俺は俺のために生きているんだ。俺にはあいつが必要なんだよ』
・5000年目。
『シューリ、俺のこと好きか?』
『もちろん。おかえりなさい、よく頑張ったね。あたしだけのヒーロー』
『……ぁ、ああ、幻覚か……びっくりしたぁ……あいつが、そんなこと言うわけねぇ』
・1万年目
『……せんおにいちゃん……たすけて』
『ごめん……助けてあげられなくて……ごめんなさい……俺が……もっと強かったら……みんな……死なずにすんだのに……ごめん……ごめん……っ』
・2万年目
センが、本格的な『神闘』の修行を開始してから、随分と時間が経った。
『武』は、大別すると『神闘』と『現闘』の二つに分かれる。
神闘を『囲碁』だとした場合、現闘は『五目並べ』。
『なるほど。これが強さか……知らなかった。俺、弱いな……』
己の弱さを理解した。つまりは、『底』が出来た。
受け皿が整った。悟ったフリではない。とても純粋な事実確認。
『……あと199億9998万年か……』
数字と向き合う。同時に計算。思った事は一つ。
『足りないな……ちっ。1000億くらいにしておくんだった』
★
――どれだけ努力しても、守れなかった命の断末魔が耳から消えない。
『たすけて……せんおにいちゃん』
『ユズ……お前の手……小さかったな……』
――頑張っているけれど、この努力に意味はあるのか?
――無意味に時を浪費しているだけでは?
――心がずっと叫んでいる。
――それでも、センはズッシリとした一秒を積み上げていく。
★
・50億年目
『……ん? え? ……はぁ? なんで、50億年も経ってんだ? いやいや、おかしい、おかしい。確かに、かなり集中して、神気の整地に没頭していたが……まさか、タイマーが狂った? いや、でも……普通に、ゆっくりとした1秒がカウントされているし……まさか、本当に50億年経ったのか? ぃ、いやいや、ねぇよ。俺自身の戦闘力だって、まだそんなに上がって……ぃ、いや……ぇ、あれ……俺……なんか、達してる?』
気づけば、『知らない世界』が広がっていた。そこは、とても、とても、広い場所だった。
・100億年目。
センは、修行と瞑想を、一定の感覚で繰り返すようになった。
『あと、もう少しで……』
全ての武を一周しては、無の中に沈む。神闘がなじんでいくのを肌で感じる。
・200億年目。
センは遂に理解する
――俺は、まだ、達していない――
――俺は、まだ、何者でもない――
そして、まだまだ不完全で未完成な、けれど、確かな『蕾』となったセンは、不条理な運命を調律するため、『出口として出現したソウルゲート』をくぐったのだった。




