18話 聖典が嫌いだ。
18話 聖典が嫌いだ。
――ドナの聖典講義を聞いた民衆は、みな、涙を流していた。
流していないのは一人だけ。
隅っこの席で、コソっと聞いていたウセネス(センエース)ただ一人。
彼は、頭をかかえながら、心のなかで、
(俺にもっと才能があれば、バーチャが来る前に神化できるようになっていたかもしれない。そうすれば、誰も死なずに済んだ……かもしれない。『皮算用』や『たられば』に意味はねぇし、守れなかった命ばかり数えても仕方がないのは事実。だから、これまでは、ずっと目と耳をふさいで、前だけを見てきた。けど、実際問題……)
ウダウダと悩んでいるウセネス。
そんな彼の隣にいるミカンの目から一筋の涙があふれた。
ドナの、あまりにも臨場感あふれる宣教をダイレクトに受け止めてしまったことで、つい、涙を流してしまった。
(……やば……ちょっと感動しちゃった。こんなの、過剰に美化されたプロパガンダに決まっているのに……私、ダサい……くそ……ドナ猊下、トークがうますぎる……くそっ)
不覚にも泣いてしまった自分を恥じるミカン。
どうにか、足をつねって涙を我慢しようとするのだが、大聖堂全体の、しっとりとした雰囲気にあてられて、なかなか涙を止めることができない。
「……おいおい、ミカンさんよぉ……言ったよな、ドナの言葉は話半分で聞けって」
「わ、わかっている。これは、ただ、場の空気にあてられただけで……」
そう言いながらも、心の中で、
(正直、まだ、『誇張された創作美談』としか思えない……けど、もし、全てが本当だったら……センエース神帝陛下は、いったいどれだけの……ぁあ、くそ、涙、止まれ)
そんな風に泣いている彼女を見て、ウセネス……『セン』は、ギっと奥歯をかみしめる。
数秒考えてから、ふと、決意した顔で、
「あのさ……」
「え、あ……なんだ? すまない……まだ、ちょっと涙が……あはは、変だな……感動しているわけじゃないんだ。これは、ただ……」
「俺、実はセンエースなんだ」
「……え」
「という冗談の続きを口にするから……ちょっと黙って聞いてくれる?」
「……」
「ドナは、『俺が世界を助けた』って話ばかりする。……でも、バーチャの時も、バグの時も、戦争の時も……いったい、何人死んだと思う? 合計100億人以上だぜ」
「……」
世界を守ったのは事実。
確かにセンエースは英雄的に敵を殺した。
命をかけて、華やかに強くなって、圧倒的な力を誇る怪物をなぎ倒した。
それは事実だが……その裏では、大勢の人間が死んでいる。
それだって事実。




