17話 愚神。
17話 愚神。
死して第七アルファに転生したセンは、
当然のように、『第二~第九アルファの王』となった。それから、平和は長く続いた。
『セン様……この世界は美しいね……ミシャは……この世界を守りたい……壊してしまった世界の分も……この世界を守るって誓う。ミシャがやったこと、許されないのは分かっている……けど、もう振り向かない……これから、ミシャは……壊してしまった命のためだけじゃなく……助けられる命のためにも生きるの』
PSR部隊の副官ミシャ。かつて、『ただ生まれてきた』というだけで、世界を滅ぼしてしまった災厄の邪神。
『ミシャ……もし、お前が、今の覚悟を忘れたら……己が背負っている業を忘れたその時は、俺が、お前を殺す』
『……はい』
『だが、世界を守るために闘い続けるのなら……そのために努力を積み続けると誓うなら……俺も共に、お前の業を背負おう』
『っっ……セン……様……』
『産まれた事を罪だなんて言わせねぇ。それを罪だというのなら、命の全てが罪になってしまうから。……けど、それじゃ、あんまりだろ。魂魄を焦がすような罪をなすりつけあっても、その先には焼け野原しかない』
『ぅ……ぅう……ひっ……うぁぁ……』
『忘れるな。見失いそうになったら、前を向け。そこには、きっと、俺がいるから。だから、ちゃんと今日を生きろ。いつか、この世界を美しいと思える自分が美しいんだって、精一杯胸を張って言えるように』
ゆっくりと流れていく優しい時間。
そんな暖かい平和が、ある日、突然壊された。
『ふははははは! なぜだ! 信じられん! 現世で【神の力】が使える! どういう事か、さっぱりわからんが、この僥倖、決して逃しはせんぞ!! 全ての命を食らい尽してやる! さすれば、私は……【超神】になれる!!!』
ある日、『神界』から、一柱の『神』が降りてきた。名は、バーチャ・ルカーノ・ロッキィ。
神の中にも『歪んだ者』はいる。
神は、本来『現世で力を使えない』のだが……バーチャは、『世界を壊す者』の『フラグメント(原初邪神のカケラ)』をもっていた。
だから、現世でも『神の力の一部』が使えた。
設定が多すぎて困るが……一言で言えば、バーチャは『世界にヒイキされた邪神』だった。
コネや特別枠は、どこにでもあるもの。
それは神も変わらない。
『全ての生命よ! 光栄に思え! 貴様らは、私になる! 私が超神となるための生贄となれるのだ! その栄誉を胸に抱き――死ねぇ!!』
バーチャは、現世で暴れに暴れた。
神の進化形態――『超神』となるため、現世の魂を貪り食らった。
『私はこの宇宙の【最適解】! だから私は常に、絶対的に正しい!』
バーチャは高笑いしながら、地上の命を一つずつ『収穫』していく。
彼にとって、人間は資源であり、魂は燃料でしかなかった。
『祈り? 救い? 下劣! 神に求めるな! 貴様らは家畜に宝石をあたえるか?』
当然、センは抵抗した。
しかし、『神の力の一部』が使えるバーチャが相手では、いくらセンでも相手にならなかった。
神の存在値はケタ違いに膨大。
センエースが『存在値1253』なのに対し、
バーチャは、なんと驚愕の『存在値80000000』。
次元があまりに違い過ぎた。
『わかるか、センエース! 貴様がまだ死んでいないのは、私が手抜かりなく手加減しているからだ。私は今、潰さないようにアリを踏んでいる!』
どうにか持ち込んだタイマン勝負で、センは負けた。
圧倒的に負けた。
ボッコボコにされて、間違いなく死ぬと理解した、その時、センの脳裏をよぎったのは、いつもの『弱さ』だった。
――ムリムリ。
あれには勝てない。
てか、なんだよ、存在値8000万って。
完全にギャグじゃねぇか。
ふざけんな。
強さの次元が違いすぎる。
アリと恐竜みたいだ――
『もう……いいよな……』
ガレキの下で、センエースは、ボソっとそうつぶやいた。
砕けた『ピエロの仮面』の下から、小汚い素顔がのぞく。
『無理だから……勝てないから……もういいだろ……? 頑張っただろ……?』
あふれ出る。
こぼれる。
『褒めなくていいよ。喝采も、賛美もいらない……だから、どうか、【諦めていい】って許可だけくれ……』
圧倒的な力量差を前に、センは、『本音の弱音』を、吐きだした。
「もう嫌だ! なんで、俺ばっかり、こんな目に! 異世界転生モノっていったら、流行りはスローライフだったろ! もしくは、チートで楽勝が相場だろ!』
『ん? ……なんだ、まだ生きていたのか。しぶといな。というか、なにをわめいている』
『もういいだろ! 俺は、諦めていいはずだ! なのに! なんでぇ!!』
ガラっと、ガレキが動いた。どうにか、立ちあがり、
『はぁ……はぁ……くそったれ……なん、で……立つんだよ……』
『それは、私のセリフだろう。なぜ立つ? 勝てないのは分かったはずだ』
『俺は……ヒーローじゃない……』
『だろうな。そんなみっともない姿をした者を英雄とは呼ばない』
『それでも……叫び続ける勇気を……』
センは、ギュっと握りしめた拳を胸にあてて、
『ぶっ壊れて、歪んで、腐って、けれど、わずかに……でも確実に残っている、この想いのカケラを……』
吐きだした振動が空気に触れて酸化する。空は青くて、雲は白くて、
『集めて……最後の……最後まで……抗ってやる』
目の前に全部を並べて、揃えて、だから、センは言う。
『俺は、センエース。全世界の頂点に立つ、命の王だ』
……パァァァっと、何かが開く音が、確かに聞こえた。
『人間をナメるなよ、神……俺を殺し切ってみせろ』
全ての弱さを飲み込んで、仮面を脱ぎ捨てて、さらけ出した想いが結合する。
結果、たった一つの結論に収束。……ついに花開く。
――まだまだ発展途上だった『センエース』という、世界一の可能性。
センの中に眠っていた神種が、輝きだす。
『ほう、神種が開花したか。随分と珍しい場面に出くわしたな。くく……しかし、無駄だ』
バーチャは、余裕の表情を崩さず、
『神に成った者は、現世では大きな制限を受ける。例外は私だけ。貴様は神に成ったことで、むしろ、今までほどの力すら出せなぐぼはぁあ!!』
右ストレートでぶっ飛ばされたバーチャは、血の味を飲み込みながら、
『バカな………ぐほっ……な、なぜ……なぜだ! なぜ、神の力が使える!』
特別なのはバーチャだけじゃない。
センエースも『運命論の切り札』の『フラグメント(存在証明書)』を持っていた。
世界の根底にあるルール。
世界を壊す者がいるなら、それに対抗する者もいる。
運命のアリア・ギアス。
互いが互いのリスクとなり、力となる。
所詮はただの屁理屈。
だから、あとはどっちの理不尽が上かの力勝負。
『感覚で分かるぜ、バーチャ。お前は俺の天敵で……俺はお前の天敵だ』
『私の天敵を名乗るなど傲慢にもほどがある!!』
苛烈な闘いに世界が揺れた。
――ハチャメチャな闘いの果てに、センはついにバーチャを追い詰める。
無数の極大魔法と、閃拳の連打で削りに削った。
しかし、結果として、それが、バーチャを起こすキッカケとなってしまった。
『この私が! 貴様のような現世のカスにぃいいい!! ぬぅぉおおおお!!』
神の世界、その表層で、長く燻っていたバーチャ。『積み重ねてきたもの』があるのはセンだけではなかった。センエースという下等種に追い詰められたことで、バーチャは、ついに、
『――【【超神化】】ぁああ!』
……『壁の超え方』を知ったのだ。
『ひゃっはあ! 見ろぉ、センエース! 貴様のおかげで、とうとう成れたぞ! 夢にまで見た神の果て! 私こそが、真なる神! 超神バーチャ・ルカーノ・ロッキィィイ!』
超神と成ったバーチャの力は、センよりも遥かな高みにあった。
その凄まじい力に、『神に成りたてのセン』では歯がたたない。
絶対の死を前にして……しかし、
『届かない訳じゃねぇ。確かに、クソ遠いが、俺の武は……俺が積み重ねてきた狂気は、この絶望を殺す希望たりうる。必死に積んできてよかった。おかげで、まだ舞える』
これまで、センは愚かしく、まっすぐに、イバラの道だけを歩き続けてきた。だから、
『ぐっ……はぁっ……はは……足りねぇよ、神様。あんたじゃ、俺は殺せねぇ……』
『なんでだ! 私の存在値は500億だぞ! 数億そこそこの貴様が、どうして、私の攻撃に耐えられる!』
『質量が足りねぇ。デカいだけで、綿みたいだ。綿1キロと、鉄1キロ、重いのはどっちでしょう』
『センエェス!! くそがぁ! 貴様さえ、貴様さえいなければぁ!!』
『バーチャ・ルカーノ・ロッキィ。強さの果てにある神よ。あんたはすげぇ。確かに最強だ……けれど、だから……だからこそ、撃てる』
センは、
『ゾメガ、平、ミシャ……俺が守ってきた世界……託したぜ……』
全てを賭して、
『宣言!! コスモゾーンよ! あんたに、俺の命をくれてやる!! 俺はまだまだ生き足りねぇ! 真なる神の姿を見て、その姿に憧れた! あの領域に行きてぇと心から思う! そんな想いも、なにもかもを奉げる! だから、俺を!! 本物にしてくれぇえ!』
全世界・全宇宙・全生命を無限超速演算している超巨大汎用量子コンピュータ『コスモゾーン』は、『実質的な神様』みたいなもの。
センが奉げたのは死の覚悟。
最後の砦である『無限転生』をも賭けた一撃を望む。
これまでは、どこかであった『どうせ、蘇る』という最後の頼りすら投げ捨てたセンエース。
すなわち、――本物の英雄になる覚悟。
――『絶死のアリア・ギアス』
『ヒィィィロォォォォ見参っっっ!!』
命を込めて、センは撃った。
『受け取れ、バーチャァ! これが、俺の全部だぁ! ――異・次・元・砲ぉおお!!』
この時のセンに放てる、正真正銘、最高最強の一撃。真なる英雄の咆哮。
『ばかなぁ! うそだぁ! 私が! 超神の私がぁ! なんでぇえ――がぁあ―――――』
道連れの完全消滅。
命を賭して、愚神から世界を守ったセン。
はじけ飛んだバーチャの魂魄と共に、光の膜につつまれて、センエースの全てが、コスモゾーンの深部へと溶けて行こうとした。
――が、まだ、センの旅は終わらなかった。
センの無限転生は、絶死のアリア・ギアスでも殺せなかった。
『ここ……は……』
――目覚めた時、センの魂魄は、『神の世界』にあった。




