16話 害虫を駆除しただけ。
16話 害虫を駆除しただけ。
――そこで、ドナは一度聖典を閉じた。
そして、天をあおぎ、ツーっと涙を流す。
あまりにも美しい涙に、見ている者の大半が心奪われた。
ただ『ウセネス(センエース)』は、
「あちゃー、最悪だ。語り部が途中でアクビしちゃったよ。ダメだねぇ。どんだけつまんない話なんだよ。ま、実際、退屈だったよな。な、ミカンたん」
「……泣いているのだと思うが……」
「泣くところあったか? ねぇだろ? 『顔面偏差値48のオッサンが害虫を駆除しました』。それだけだったじゃん」
「一睡もせず、5年も戦い続けたというのは……感動的と言えなくもない、と思うが」
「ぷーくすくす、たかが5年だろ? んなもん、集中してりゃ2秒より早いぜ」
「……流石に、茶化しすぎだ。信仰する・しないは『神法でも保証されている個人の自由』だが……頑張っている者を笑うのは、ただの醜悪で気分が悪い」
ピリっとした怒りを向けてきた彼女に、ウセネスは、眉間にしわを寄せて、
「お前の気分なんか知るか。こっちの気分は、ずっと害されまくってんだぞ。尊いだの、美しいだの、過剰な言葉で真実をごまかして……そっちの方がよっぽど醜悪だろ」
ウセネスの異常な圧力を前に、ミカンは『うっ』と一歩引いてしまう。
「センエースがバグを殺すのに手間取ったせいで、いったい何人死んだと思っている。あの時死んだ人間の中に、俺の家族がいたら……とか、お前考えたか? あ? ちょっとは考えて口を開けよ、小娘」
「……家族を……なくしたのか?」
「いや、なくしてないけど?」
「……な、なんなんだ、貴様は……」
と、そこで、最前列に座っている屈強な男が、ガタっと立ち上がり、涙を流しながら、
「ドナ猊下! 申し訳ありませんが、どうか、一言だけ! 私は『栄えあるゼノリカを支える剣、愚連のS級武士デイガ・ヘルファイア』でございます! かつて、私は神帝陛下に直接救われたことがございます! あの時の私はまだ弱く、強大なモンスターを前に死を待つばかりでした! そんな絶体絶命の折、神帝陛下が天より降臨し、私の前に立ちはだかってくださった! あの時の壮大な背中が今も目に焼き付いている! 偉大な王は、私ごときを庇って血を流してくださった! 陛下は本当に素晴らしい御方! あの日以来、私は、陛下の必殺技『閃拳』を毎朝5000回以上練習しております! 私は! 私は――」
そこで、ドナが芯のある声で、
「そなたの興奮する気持ちは分かる……が、落ち着きなさい。まだ途中です。私は、まだ、神の真髄を語っていない」
「も、申し訳ございません!!」
そんな様子を尻目に、『ウセネス(センエース)』が、ボソっと、
「……助けた記憶はあるが、血は流してねぇぞ……エグい捏造すんなよ……もう、そんなんばっかだよ、全部が全部……」
――感涙休憩もそこそこに、ドナはまた聖典を開いて語りだす。




