15話 バグ。
15話 バグ。
――戦争が終わり、世界は、偉大なる英雄王センエースを中心に団結しはじめた。全てが良い方に進むと思われた矢先、まるで、追撃のように、大問題が降ってきた。第2~第9アルファをつないだゲートの『深部』が、『ドコカ』と繋がったのだ。一方通行の『ドコカ』から、『奴ら』はやってきた。
センエースによって名づけられたその災害の名は『バグ』。
強大な力を持ち、自我を持たない巨大なバケモノ。
見た目は、『薄羽の生えた、トラックサイズの巨大なサソリみたいな異形』だった。その存在値は、どいつもこいつも『1000』以上。そんなバケモノが、『10000体』以上。しかも、信じられない事に、やつらは、『リポップ』性能を有するモンスターだった。
実はバグの核には、過去の戦死者の魂が変質して封じられている。
無意識の怨念が集まり、形を持たずに生まれた、自我なき復讐者。
運命に振り回されて傷つく世界。
――また、多くの民衆が死んだ。
バグによって崩壊した街では、瓦礫の下から、誰かの手が覗いていた。
泣き叫ぶ子供の声は、静寂の中で遠くまで響く。
希望を信じて耐え抜いてきた者たちが、一人、また一人と、声もなく潰れていった。
――戦争の終わりにようやく芽吹いた『平和』の幻想は、情け容赦なく、バグの群れに踏みにじられていく。
誰もが思った。
――もうダメだ。今度こそ、本当に終わりだ、と。
『終わりじゃ……世界は……奴らに喰い尽くされる。あれだけ苦労して戦争を終わらせたというのに……最後は、呆気ないもんじゃな』
『ゾメガ、勝手に終わらせるな』
『セン……無理じゃ。確かにぬしは強くなった。いまや、この余ですら歯がたたんほどに強くなった……しかし、奴らには勝てん』
『……あいつらバグは、知能を持っていないんだよな』
『なんじゃ、急に』
『いや、改めて思っただけさ。知性がないから、あいつらは強い。精神的な弱さってやつがねぇ。はは……ほんと、学習能力ってやつは厄介だよな。諦め方ばっかり学んで、大事な事はすぐに忘れちまう』
『……』
『……あんな異常な強さを持つ異常な数のバケモノを殺し切る……ああ、不可能だ。間違いない。けど、だったら……』
センは、
『不可能を殺してやるよ』
――今回も『奇跡』は起こらなかった。
ただ、英雄が、地道に絶望を殺し続けただけ。
『復活するよりも早く殺し続けてやるよ。覚悟しておけ。俺はまだ、2回も変身を残している』
中身のない嘘を叫びながら、己の命を盾に、センは剣を振り続けた。
ボロボロになりながら、迫りくるバグの攻撃を一身に受け続けた。
『どうだ、脳ミソを持たないバケモノ共……人間はすげぇだろ?』
息も絶え絶え、血ダルマになった。
半身をふっ飛ばされ、臓器が爆散しても、センは剣を振り続けた。
5年。
一睡もせず、センは闘い続けた。
救いを求める者たちの祈りを背負って、一心に。
――センは、何度も思った。
さっさと死んで次に行こう。
――だが、
『ヤッタゾ……一匹ヲ殺ス時間……最高記録更新』
センエースは投げなかった。折れなかった。全てを背負って、
『十時間ヲ……切ッタゾ……ゲハハ……サア……反撃開始ト行コウカ』
――演じ(闘い)続けた――
バグを殺すスピードは日に日に上がっていった。
血だまりの中で、センは闘い続けた。
決して折れない英雄の姿が世界を支える。
――命の意味が、分かった気がした。
『忘レルナ……コレガ……絶望ノ殺シ方ダ……』
――醜く、無様に、最後の最後まで戦い続けたバケモノとバケモノ。
ある日の夜明け。
空に太陽が昇った時、そこには、粒子になって溶けていく、一万を超えるバグの完全な死体と、立ったまま死に絶えているセンエースの姿があった。




