14話 暑苦しい神話。
14話 暑苦しい神話。
――そこで、ドナは水を飲んで、一呼吸を入れた。
余韻が大聖堂全体を柔らかく包み込む。
周囲からは、かすかに、すすり泣く声が聞こえてきた。
しとやかな場の空気を横目に、ミカンが心の中で、
(……ずいぶんと暑苦しい神話だ。脚色過剰すぎて、逆に冷めてしまう。もし、仮に、これが事実だとしたら、それはそれで怖いしな。センエースの精神は人間のものじゃない)
と、そこで、『ウセネス(センエース)』が、隣のミカンにだけ聞こえる声で、
「本当に有能なら、戦争を終わらせるまでに、70年もかからない。そう思わない?」
「ぇ……ぁあ、いや、しかし、それだけ酷い戦争だったということでは?」
「幹部連中から、あれだけの称賛を受けているほどの御方の結果としては弱くね? って話よ。俺だって『そこらの5歳児が世界を救った』って聞けば、すごいねーって手を叩いて褒めてやるさ。仮にそれが、野原さんちのお子さんだったら、『いつものことだろ』って思うだけだが」
後半の言葉の意味は分からなかったが、
ウセネスが意味不明な言葉を連発する変態だと既に理解しているので、
ミカンはさらりとスルーして、
「……だいぶ暑苦しい神話だとは思うが、しかし、神帝陛下が、もし、本当に、大変な苦労をして戦争を終わらせたのであれば、それは、尊敬に値すると思う」
そこで、ミカンは、心の中で、
(鮮血時代の詳細な記録は、パメラノ猊下に見せてもらった。血で血を洗う地獄。あの時代を、『王(責任者)』として乗り越えることは……私には出来ないことだ)
「ヘイヘイヘイ、落ち着けよ、ガール。まったく、とんだ子猫ちゃんだぜ。尊敬だなんて、そんな強い言葉を使うなよ、弱く見えるぞ。……いいか、ミカンちゃん。センエースは、レベルを上げて物理で殴っただけだ。それ以外に何かしてたか? してないよな。つまりはそういうことだよ」
「……どうにも極端すぎる意見だな。まあ、あなたがどう思うかは自由だが……」
そこで、ウセネスは、ボソっと、
「……本当に尊い英雄なら……一人も死者を出さないはずだ」
「ぇ? 今、なんて?」
「宇宙は膨張している、って言ったんだよ。宇宙猫、かわいいよな。猫はいい。しかし、犬も捨てがたい。柴犬とスコティッシュがいれば、人生はワンダフルニャンダフル。俺が何を言っているかわかるか? 俺にはさっぱりわからない。俺は雰囲気でゲロを吐いている」
ウセネスの目は、どこか遠くを見ている。
そんな彼を横目に、ミカンは、心の中で、
(……一人も死者を出さないなんて……無理な話だろ)
シンと、静かに、時が流れた。
その静寂を破るように、壇上から小さな咳払いが聞こえる。
――ドナが、再び語り始めた。
センエースの神話。
歪に狂っている血塗られた英雄譚を。




