12話 この上なく尊き御方の話をしましょう。
12話 この上なく尊き御方の話をしましょう。
「貶めてはいねぇよ。事実を述べているだけだ。センエースって男は、実際ただの童貞。あんたみたいな新参者が、ゼノリカの毒気にあてられて歪まないように注意喚起しているだけ」
「せ、センエース神帝陛下を人前で呼び捨て……さ、さすがに、それは許されないぞ。不敬罪で首をはねられても文句を言えない」
「もう、いっそ、首をはねてほしいぜ。……恥ずかしい。みっともない。よその世界からつれてきた新参者にまで、『センエースを敬え』と強制する、このアホ組織……」
などと、よどんだ顔でブツブツつぶやいている『ウセネス(センエース)』に、ミカンは、『ヤバいやつを見る目』を向けることしかできなかった。
――定刻になった頃。
開始予定時刻から1秒たりとも狂うことなく、彼女、エキドナール・ドナは壇上に現れた。
見た目は30代の艶やかな女性。
目が切り傷のように細く、量のある黒髪を夜会巻きにしている美魔女。
『狂気をはらむ魔女感』と『滲み出る威厳』がハンパないドナは、偉人オーラを垂れ流しにしたまま、
「――この上なく尊き御方の話をしましょう」
定例の入り。
しとやかな声音で、場を整えていく。
ピンと空気が静まり返る。
一刻を置いて、賛美歌が始まった。
皆が胸の前で手を合わせる。
祈りを捧げ、『リラ・リラ・ゼノリカ……』と主への愛を歌う。
その間ずっと、ウセネス(センエース)は、自殺目前のサラリーマンみたいな顔をしていた。
(やべぇ……俺の中のテロリズムがうずく……落ち着け……落ち着いて、素数を数えるんだ……)
讃美歌を歌い終えてから、また一度、シンと場が静かになった。
ドナが厳かに口を開く。
「初めに言っておく。私は……聖典が嫌いだ」
そう言いながら、ドナは、自身の『聖典』を、民衆に見せつける。
ちなみに、聖典とは、『センエースのこれまでの活動記録』が物語調で刻まれた書物である。
現時点での全世界累計発行部数『8兆部』を超えているブッチぎりナンバーワンベストセラー。
ドナの右手にある聖典は、異常なまでの読み込みによってボロボロになっていた。
ドナは聖典を数百万回単位で読み返している。
そんな彼女の結論は……『聖典はゴミだ』ということ。
「聖典にあるのは、主の『きれいな部分』ばかり。セン様の本当の美しさ――血と闇と、その奥でまたたく光には、一行たりとも触れられていない」
民衆は黙ってドナの話に耳を傾ける。
ここにいる全員が、エキドナール・ドナの『センエースに対する敬愛の深さ』を理解しているから。
「主の尊さを……本当の美しさを……今から、皆に語ろう」




