エピローグ3話 ハルスとセイラと……
本日の6話目!
エピローグ3話 ハルスとセイラと……
――その後、なんだかんだすったもんだあって、
ハルスは、『原初の世界を統治する王様』になりましたとさ。
めでたし、めでたし。
「めでたし、めでたし……じゃねぇんだよ。なに、勝手に人を王にしやがってんだ」
セファイルの王城――その最奥に位置する執務室。
天井は高く、壁には繊細な装飾が施され、窓からは柔らかな光が差し込んでいる。
豪奢でありながらもどこか静謐な空気が満ちたその部屋の中央で、場違いなほどだらしない格好でソファーに寝転んでいるハルスと、その隣に、ちょこんと行儀よく座っているセイラ。
机の上には山のように積まれた書類。
それらすべてが、新たに誕生した「王」の仕事を物語っていた。
文句を垂れているハルスに、栄えあるゼノリカの天上、九華十傑の第十席序列十四位のカンツが、豪快に胸を揺らしながら、
「がはははははは!」
まるで雷鳴のような大笑いが、静かな執務室に遠慮なく響く。
「なにわらってんだ、てめぇ」
ハルスは寝転がったまま、うんざりした目を向ける。
「偉大なる主の因子を有する王よ。貴様であれば、このキテレツな世界であろうと容易に統治できるであろうよ! もし、何か問題があればゼノリカに助けを求めるがよい! この『原初の世界』にも、ゼノリカの支部を置いておくゆえ!」
胸を張り、まるで全てが既定事項であるかのように言い切るカンツ。
「人の話を聞こうぜ! 俺は一度も、王をやるなんて言ってねぇんだが?!」
半身を起こし、両手を広げて抗議するハルス。
「文句があるなら、この上なく偉大な我が主に申すがいい! 貴様を王にすると采配したのは我が神ゆえ! しかし、そう簡単に、尊き神へ御目通りが叶うなどと思うなかれ! 少なくとも、まずはワシを通してもらおう!」
「だから、てめぇに言ってんだろぉお! 頭わいてんのか、筋肉ダルマごらぁああああ!!」
ハルスの叫びが虚しく空間に響く。
しかしカンツはどこ吹く風で、腕を組んだまま満足そうに頷いていた。
ハルスがワーワー騒いでいる横で、セイラはしとやかに紅茶を飲んでいた。
白磁のカップを両手で包み込み、ゆっくりと口元へ運ぶ。
琥珀色の液面が、窓から差し込む光を受けて静かに揺れる。
騒がしい声など気にも留めず、穏やかな時間に身をゆだねていた。
すると、執務室の重厚なドアが静かに開いた。
蝶番がかすかに鳴り、外の空気がすっと流れ込む。
「失礼します」
丁寧な挨拶と共に、一人の若い女性が中に入ってきた。
落ち着いた足取り。
控えめで、しかし芯の通った佇まい。
その女性はまずハルスとカンツにしっかりと頭を下げる。
自然に身についた礼節の動きだった。
それからセイラの隣に腰をかける。
その瞬間。
セイラの表情が、ぱっと柔らいだ。
次の瞬間、がしっと抱き着いて、
「おねぇちゃん、体、もう大丈夫?」
まるで小さな子どもが安心した時のような、屈託のない笑顔だった。
女性は一瞬だけ驚いたように目を丸くしたあと、すぐにやわらかく微笑む。
「うん……もう大丈夫。心配かけてごめんね」
その声は静かで、どこか温かかった。
かつて、壊れるほどの現実の中で、それでも誰かのために笑い続けていた者だけが持つ、静かな優しさが滲んでいる。
セイラは安心したように頬をすり寄せる。
その光景を、ハルスは一瞬だけ見た。
ほんの一瞬だけ、騒ぐのをやめて。
そして、ほんのわずかに視線を逸らす。
何も言わず、また大げさにため息をついた。
「……人の生き死にも気分次第好き放題か……はっ。キモい神様だぜ」
ぶっきらぼうな声だったが、さっきまでの苛立ちとは、少しだけ温度が違っていた。
窓の外では、穏やかな光が変わらず差し込んでいる。
そんなエモさの中、
カンツの鉄拳が、ハルスの頭部に落ちる。
「痛ぇなぁ! なにしやがる!」
「偉大なる王を侮蔑することだけは許さん!」
「そういうアレじゃないことぐらい分かんだろぉおお! バカか、てめぇえ!」
その様子を見て、セイラも、彼女の姉も楽しそうに笑った。
騒がしさも、理不尽も、過去も、全部まとめて飲み込むように、静かな時間が流れていた。




