エピローグ2話 ゼンとシグレ。
本日の5話目です。
エピローグ2話 ゼンとシグレ。
ザンクとテラスが奇妙な距離感を醸し出している席から少し離れた席で、
――ゼンとシグレも茶をシバいてた。
ラウンジの奥まった位置に置かれた丸テーブル。
低く抑えられた照明がテーブルクロスの織り目を柔らかく浮かび上がらせ、カップから立ちのぼる湯気がゆっくりと空気に溶けていく。
遠くでテラスの笑い声がかすかに聞こえるが、この席の周囲だけは不思議と静けさが濃かった。
――『田中・イス・シグレ』は鏡で、自分の顔……具体的には、右目の下から首にかけてを確認しながら、
「完全には……消えてへんな……」
言葉通り、禍々しい呪いのタトゥーは、うっすらと残っている。
淡く沈んだ色は皮膚の奥に染み込んでいるようで、光の角度によっては、まるで脈打つ影のようにも見えた。
触れずとも、そこにあることが分かる――そんな違和感が、まだ確かに残っている。
その様子を凝視しながら、ゼンが渋い顔で、
「あのキチ〇イの神様が言った通り、呪いはまだ完全に消えたわけじゃないってことか……」
シグレは鏡をテーブルに置き、指先でそっと首元をなぞる。
「まあ、でも、最終的にはどうにかするぅって言うてたから……まあ、大丈夫やろう」
軽く言うが、その指の動きは無意識に少しだけ慎重だった。
「だといいんだがな……」
そう言いながら、ゼンは自分の手を見つめる。
拳を軽く握ってみる。
力は確かにある。
だが、その力がどこまで届くのかを考えると、胸の奥に小さな引っかかりが残る。
「俺も、神様に協力とかできたらいいんだが……あの神様、異常に強すぎて、俺ですら、足手まといにしかならないんだよなぁ……」
カップの縁に指をかけたまま、ゼンは小さく息を吐いた。
「ええよ、ゼンはなんもせんで。あの変態の神様に任せとけばええ。それより、結婚式、いつにする?」
あまりにも唐突な話題転換に、ゼンは思わず顔を上げる。
「……いや、任せっぱなしってのも……俺も、ある程度は強いし、あの神様と同じ因子を持っとるから、頑張れば、それなりのところまでは行けると思うから――」
言いながらも、自分の言葉がどこか空回りしているような感覚があった。
「せやから、そっち方面で頑張るんは、神様に任せとけばええんよ。ゼンは、今後のあたしとの生活で頑張らな。夫としても頑張ってもらうし、将来的には、お父さんにもなってもらわないかん。実生活で頑張るんも、それはそれで大変なんやで。ぶっ飛んだ方向で頑張るんは、戦いの神様に任せとけばええ」
シグレはそう言いながら、カップを持ち上げて一口飲む。
温かさが喉を通っていく感覚を確かめるように、ゆっくりと息をついた。
「いや、でもなぁ……俺も、できれば、最強を目指したいというか――」
「ごちゃごちゃ言わんの! ゼンは、あたしのことだけ大事にしたらええの!」
即座に飛んできた言葉と同時に、軽く蹴りが入る。
「ひでぶっ」
さっそく尻にしかれまくっている閃光の種。
テーブルの上で揺れたカップの中の波紋が、ゆっくりと静まっていく。
多分、この関係も、一生変わらない。




