エピローグ1話 テラスとザンク。
本日の4話目です。
エピローグ1話 テラスとザンク。
『センの中のヨグ』の中にある世界――『真・第一アルファ』。
そんなややこしい世界のホテルのラウンジ。
柔らかな照明に照らされた静かな空間で、ゆったりとした時間が流れている。
磨き上げられたテーブルに置かれたティーカップから、ほのかな湯気が立ち上っていた。
ここで茶をシバいているのは、
センエースのTSであるセンテラスと、
テラスに心酔している田中家の異端児ザンク。
「えっと、つまり?」
現状、テラスは、このラウンジで、ザンクから現状の説明を丁寧に受けている。
ちなみに、ザンクは、センの魔法で生き返った。
ワールドエリミネイトの滅死も、今のセンの蘇生魔法の前では太刀打ちできない。
ザンクは、
「AS1001の世界線だけが正史となり、他の世界は『あったかもしれないIF』として処理されとる」
淡々と、しかしどこか慎重に言葉を選びながら説明を続ける。
テラスが渋い顔で、指をこめかみにあてて、
「この辺の理屈がいまいち分からないんだよなぁ……その、なんだっけ……SEファイル希少種リオレイアだっけ?」
「世界SEファイル・観測者レイアー構造」
「なんでもいいけど、結局、私はどういう状態になったの? 赤ちゃんにも分かるように説明してほしいバブ」
「正常世界線ナンバー1001のセンテラスは、『世界線の収束を確定させる存在』として、AS世界線に完全に組み込まれた」
「えっと……ようするに、あたしは、この世界目線における異次元同一体ではなく、この世界のセンテラスになった、と?」
「まあ、端的に言えば」
ザンクは小さく頷く。
「……ふぅん、全然分からないけど……うん、完璧に理解した。考えるのめんどくさいから、もうオールオッケー」
あっけらかんと言い放ち、テラスはソファの背もたれに体を預けた。
「よう流せるな。ジブン的には、だいぶえぐい状況やと思うけど……相変わらず豪胆な女やで……」
呆れ半分、感心半分といった声色でザンクがつぶやく。
「正直、この状況は、願ったり叶ったりなところがあるからね。ここに来る前は、ゼノリカの連中にアホみたいに信仰されてて、どうしたもんかと頭抱えていたところだったし」
テラスは頭の後ろで手を組み、そのままソファに寝転がった。
まるで、重たい話など最初から存在しなかったかのような気楽さだった。
「ゼノリカの連中に会いたいとか、そういうのは思わんの?」
ザンクの問いは、どこか慎重だった。
「統合されてるんでしょ? ってことは、この世界のゼノリカが、私のところにいたゼノリカと一緒ってことじゃない?」
「その辺、少々ややこしいが……突き詰めて端的に言えば、確かにその通りやな」
「じゃあ、いいじゃん。ゼノリカの面々がいて、当時の私の代わりを、センエースが務めてくれる。考えれば考えるほど、この状況は私にとって僥倖以外の何ものでもないな……らっきぃ」
天井を見上げながら、心底気楽そうに笑う。
肩にのしかかっていたはずの重責を、まるで他人事のように受け流すその姿は、ある意味で彼女らしい。
「……ほんまに変な女……」
ザンクは小さく苦笑した。
「で、あんたは今後、どうするの?」
視線だけを向けて尋ねるテラス。
「前にも言ったはずや。ザンクさんは、一生、センテラスについていく。ザンクさんの居場所はセンテラスの隣。それ以外にない」
迷いのない声音だった。
そこには冗談も誇張もなく、ただ事実だけが置かれている。
「ストーカー、こわっ」
しんどそうにそうつぶやいてから、テラスは小さく息を吐く。
「でもまあ、昔に比べたら全然マシかな。……ザンクは、なんかあった時のCPUとしては便利だしなぁ……」
軽口のようでいて、完全な拒絶ではない。
ザンクはその言葉に、わずかに肩をすくめて、苦笑を浮かべた。
静かなラウンジに、穏やかな空気が戻る。
世界の構造がどれほど歪もうと、どれほどの理屈が積み重なろうと、
この二人の距離感だけは、不思議なほど変わらないままだった。




