1話 扉の向こう。
1話 扉の向こう。
扉の向こうに広がっていたのは、どこまでも続く真っ白な空間だった。
上下も左右も判然としないほど均質な純白。
影すら曖昧で、距離感さえも狂わせるような無機質な広がりの中に、ただ二つだけ、異物のように扉が存在している。
一つは、今しがたセンが通ってきた後方の扉。
そしてもう一つが、正面――およそ十メートルほど先に、静かに佇んでいた。
形状はよく似ている。
だが、こちら側の扉はどこか、より重たい沈黙をまとっているようにも感じられた。
入口の扉を背にしたまま、センは正面の扉をじっと睨みつける。
視線には警戒と、わずかな苛立ちが混じっていた。
「……まさかとは思うが……この期に及んで『鍵は2つ必要です』とか言わないだろうな……」
ぼそりと吐き出された言葉は、白い空間に吸い込まれるようにして消えていく。
反響もなければ、空気の揺らぎすらない。まるで音という現象そのものが、ここでは意味を持たないかのようだった。
センは小さく肩をすくめると、慎重な足取りで歩き出す。
一歩踏み出すたび、靴底が床に触れている感覚はあるのに、確かな手応えがない。重力は存在しているはずなのに、どこか現実味が希薄だった。
やがて扉の前に辿り着き、センは足を止める。
じっと観察する。
まず目についたのは、一般的な扉にあるはずのものが何一つ存在しないという事実だった。
鍵穴はない。
ドアノブもない。
継ぎ目すら曖昧で、どうやって開閉するのか想像もつかない。
ただ一つ、扉の中央部分にだけ、異様な存在感を放つ表示があった。
数字が刻まれている。
ゆっくりと、しかし確実に減り続けているカウント。
センは目を細める。
「……これは……なんのタイマーなのかねぇ……」
表示されているのは、奇妙な表記だった。
――『X17:39:27』
数字は刻一刻と減っている。
静寂の中で、時間だけが確かに流れていることを示す唯一の証拠のようだった。
センは腕を組み、わずかに首を傾げる。
扉の中央に刻まれた数字を見つめながら、センは小さく息を吐いた。
「これは……時計……じゃないよな。……17時間39分27秒後に開く……って解釈でいいのかな? 頭にXってついているのが気になるところではあるが……」
呟きながらも、その視線は鋭いままだった。
この場所が、単なる待機室のような生易しいものであるはずがない。
ここまでの道程を思えば、むしろ何かが起こる前提で構えた方が自然だった。
純白の静寂の中、減り続ける数字だけが、ゆっくりと確実に次の局面を予告している。




