絶・最終話 エンドロールを眺めながら。
絶・最終話 エンドロールを眺めながら。
センの前方。
虚無しかなかったはずの空間に、淡い光の粒子が生まれる。
それは粉雪のように舞い、渦を巻き、やがて人の輪郭を形作っていく。
最初に現れたのは、砕け散ったはずの肉体の基礎。
次に、血管。
筋肉。
骨。
そして、魂。
完全なる蘇生。
今のセンには朝飯前。
――ゼノリカの面々。
バーチャとの闘いで、センエースを蘇生させるために、
迷いなく、誇り高く、命を投げ捨てた者たち。
その一人一人が、光の繭を破るように、地に足をつけていく。
全力の平伏。
それは礼ではない。
命を賭してなお足りぬと悟った魂が、己の存在価値そのものを差し出す儀式だった。
最前線で平伏する狂信者アダムが、
「いと深く、いと尊く、果て無くまたたき続ける神の王よ、この世の始まりにして終わり、世界と完全に溶け合い、万象と調和し、すべての次元を、より高次な概念へと押し上げた、疑うべくもなく、この世で最も偉大なる父よ、ああ、ああ、ああ……美しい……あなた様の中に……溶けてしまいたい……」
涙で歪んだ瞳を一切伏せぬまま、センを奉った。
その涙は悲しみではない。
畏怖と歓喜と、存在を許されたことへの恍惚が混じり合った、純然たる信仰の結晶だった。
アダムだけではない。
ミシャを筆頭に、他の面々もまた、言葉にならぬ想いを瞳に宿し、呼吸すら慎重に抑えている。
ここに在るだけで赦され、平伏しているだけで満たされる。
その事実が、彼らを狂わせ、同時に救っていた。
ただ一人。
師であるシューリだけが、目を背けていた。
視線を向ければ、愛を叫んでしまうと知っていたから。
必死に歯を食いしばり、唇が震えるのを押し殺す。
それでも、胸の奥から溢れ出す誇らしさと敬愛は、どうしても止められなかった。
――その時、
世界が、わずかに震えた。
「……ん?」
センの視線の先で、
光が、静かに編まれはじめる。
それは、
運命を殺し切った者にのみ与えられる報酬。
神々しい輝きを纏い、
一冊の本が、音もなく顕現する。
深く落ち着いた赤のブックカバー。
縁を飾るのは、過剰なほどに精緻な金装。
表紙には、
世界そのものが刻印したかのような、
重みを帯びた金字が輝いていた。
裏には、
センエースの名が、確かに刻み込まれている。
「冒険の書……やっと手に入れた。長かったなぁ……」
センは黙って、それを手に取る。
軽くはない。
だが、重すぎもしない。
これまでの戦いも、
迷いも、
選び続けてきた意志も、
すべてが確かに、
この一冊に収められていると、
そう理解できるだけの重さだった。
「ちょっと行ってくる。お前らはホームに戻っていろ」
「冗談ではありません! わたくしの命は、あなた様を包み込むために存在するのです。どんな危険があるか分からぬ場所へ、あなた様をお独りでいかせるなど――」
「うるせぇ」
あっかんべーで拒絶を示してから、
センは無詠唱で、原初の禁域へと転移する。
一瞬でたどり着いた異質の空間。
眼前にそびえるのは、
言葉を拒むほど巨大な『原初の扉』。
センはそれを見上げ、
静かに告げた。
「もってきたぜ。本物の冒険の書。今度こそ、文句は言ってくれるなよ」
そう言ってから、
冒険の書を、原初の扉の鍵穴へと差し込む。
――世界が、応えた。
高らかなファンファーレが鳴り響き、
因果も、運命も、
あらゆる結末が、祝福の音へと変わる。
センは、その荘厳なBGMを背に、
扉へと手をかける。
ゆっくりと、
原初の扉が開かれた。
その奥には、
目を開けていられないほどの光。
始まりでもなく、
終わりでもない、
すべての物語が収束する、
純白の輝き。
センは、ためらうことなく、
その中へと足を踏み入れた。
めちゃめちゃ綺麗に終わったんじゃないか……
と個人的には思っておりますが、
皆様的にはどうなんでしょうねぇ(*´▽`*)
ここまで読んでくださった全ての読者様に、心からの感謝を述べながら、
――最終章を締めようと思います。




