11話 欲しかったもの……
11話 欲しかったもの……
命を止めないミシャ。
覚悟と引き換えに、輝きを限界まで凝縮し、
――ミシャは、バーチャの顔面めがけて右の拳を突き出した。
「閃光斜影のキルクルス!!」
ズガン、と爆発音にも似た衝撃が鳴り響いた。
拳は確かに届いている。
正面から、逃げ場のない角度で。
しかし。
バーチャの表情は、微塵も変わらなかった。
衝撃を受けた形跡すらなく、ただ呆れたように息を吐く。
「……ゴミみたいな拳だ。これがなんだという?」
その言葉に、ミシャは拳を下ろし、静かに言った。
「私には……あたしには……ずっと、ほしいものがあった」
「貴様のようなカスの自分語りに興味はない」
「……あたしが欲しかったんは……大好きな人の救いになれる力……今度こそ、絶対に……失わんように……」
声は震えていたが、後退はなかった。
それに対し、バーチャは鼻で笑う。
「貴様は全てを失う。何も救えはしない」
ミシャは、その言葉を正面から受け止めたまま、ゆっくりと息を吸い込んだ。
肺の奥まで冷たい空気を満たし、吐き出す代わりに、言葉として編み上げる。
「命は繋がっとる。循環……円……螺旋……センは、あたしたちの全てを背負ってくれた。だから応えられる。あたしたちはゼノリカ……この世で最も尊い王のもとで一つになると誓った縁」
それは宣言。
同時に祈りであり、逃げ場のない決意でもあった。
バーチャは肩をすくめ、冷笑を浮かべる。
「はっ……しょうもない。ようするに、貴様ら全員の命を使ってセンエースを蘇生させるということか? 自己犠牲が大好きな連中だ、気持ち悪い。……まあ、好きにすればいいが、意味はないぞ。また死ぬだけだ」
その言葉が、空間に沈み、波紋のように広がった直後だった。
バーチャの内部で、異様な音が鳴った。
ギュルル、グルル。
生ガキに当たった時のような、内臓を直接かき回される不快な音。
まるで腹の底に潜んでいた怪物が、苦悶のうなり声を上げているかのようだった。
「……ふん……」
バーチャは顔をしかめ、不快感を隠そうともせず、口を開いた。
「おろろろろろろ!!」
吐き出されたのは、ゼノリカに属していた全員。
しかし、誰一人として『人』の形をしていなかった。
肉体はすでに意味を失い、境界を保てず、崩れた存在は光の粒子へと還元されていた。
無数の微光が宙へ放たれ、意思を持つかのように集まり、絡まり、空に巨大な渦を描く。
声もない。
悲鳴もない。
ただ、静かな献身だけが、確かな重さをもってそこにあった。




