9話 奪い取る。
9話 奪い取る。
ハルスは一切の躊躇なく、『ヨグソード』を突き立てた。
ズブリ、という湿った感触。
刃は抵抗を感じながらも、確実に、深く、芯部へと潜り込んでいく。
肉を裂き、骨の感触を越え、
バーチャという存在の中心へ。
焼け付くような痛みが走り、
バーチャは歯を食いしばりながら、低く、忌々しげに吐き捨てた。
「センエースの野郎……やけにアッサリ死んだと思ったら……この可能性に賭けたのか……センエースという概念は……本当に……鬱陶しいな……気持ちが悪い……」
その直後、
拳が、容赦なくハルスを打ち抜いた。
衝撃で身体が浮き、
無理やり引き剥がされる。
同時に、腹部に食い込んでいたヨグソードも、乱暴に引き抜かれた。
血が噴き出し、刃を汚したが、
バーチャはそれを一瞥するだけで、気持ち悪そうに投げ捨てた。
「はぁ、はぁ……くそが……無意味なことを――」
そう断じた、その瞬間。
腹部に残った傷跡が、
不自然に、ぴくりと蠢いた。
治癒でもない。
再生でもない。
内側から、何かが押し上げてくる。
皮膚と筋肉が、自分の意思を失ったかのように盛り上がり、
ボコボコと、歪に波打ち始めた。
縫い合わされたはずの肉が、
内圧に耐えきれず、ギチギチと軋む。
そして――
ズバッ、と。
嫌な音を立てて、腹部が裂けた。
縦に。
深く。
無惨に。
裂け目から溢れ出したのは、血液だけではない。
臓腑の色、ぬめり、熱。
それらを押しのけるように、ぐちゃぐちゃに濡れた腕が伸びてきた。
必死に。
必死に、外を求めて。
続いて、血と内臓に塗れた身体が、這い出てくる。
シューリ。
アダム。
シグレ。
三人とも、もはや原型はなかった。
服は裂け、肌は裂傷と血で覆われ、
呼吸するたびに、肺が悲鳴を上げているのが分かる。
それでも。
歯を食いしばり、
腕に抱えていたものだけは、離さなかった。
――ミシャ。
守るように。
包み込むように。
三人は互いの身体を支え合いながら、
裂けた腹腔の縁に、必死で踏ん張る。
内側から噴き出す血が、滝のように流れ落ち、
視界も、足場も、すべてを奪っていく中で、
シューリが叫ぶように腕を振り、
アダムが背中から押し、
シグレが、残された最後の力を振り絞った。
そして――
ミシャの身体が、外へと放り出された。
小さな身体が、血の雨を切り裂き、
空間へと弧を描いて飛び出していく。
その直後。
裂けていた腹部の縁が、
ぐちゃり、と音を立てて閉じ始めた。
逃げ場を失った三人の姿は、
再び、バーチャの血と闇の中へと、
急速に、容赦なく、呑み込まれていった。




