8話 ほんのわずかに。でも確かに。
8話 ほんのわずかに。でも確かに。
それは鎖の音だった。
目には見えない。
だが、確かに存在していたもの。
ハルスを縛り、
縛られていることすら忘れさせていた、
すべての枷が――
同時に、砕け散る音。
閃光の呪いが、消えた。
『呪われた魔人ハルス』は消えて、
『神々しい月光の鎧をまとう勇者』が顕現する。
足が地についているのかさえ、分からない。
身体の奥深くから、何かが溢れ出してくる。
狂おしいほど美しく、
碧く澄み切ったオーラ。
――ハルスは、
呆然と、
自分の両手を見つめ、
「…………ぁあ……」
声にならない音が、喉から零れる。
視界が歪む。
世界が、静かに揺れる。
忘れていたもの。
置き去りにしてきたもの。
もう二度と、取り戻せないはずだったもの。
そのすべてが、
胸の奥で、静かに、しかし確実に、
「……まだ……残っていた……」
息を吹き返していく。
「ほんのわずかに…………けど、確かに……」
感情が、決壊する。
堰を切ったように、涙が溢れ出す。
止めようとしても、止まらない。
拭う暇すら、ない。
とめどなく。
無様なほどに。
――ボロボロと。
喉の奥から、かすれた息と一緒に、言葉が零れ落ちた。
「……ヨグ……」
それは簡素な命令。
まるでパソコンの電源を押すような声。
声に出した、その瞬間。
虚空が、わずかに歪んだ。
――それは、センエースが死ぬ前に残したコズミックホラー。
そして、ハルスの深部に残っていた残滓。
その二つが重なり合って補完される。
……何もないはずの空間が、色を孕み、重なり合い、凝縮していく。
淡い赤、深い青、鈍い金、透明な紫。
混ざり合わないはずの光が層を成し、やがて一本の輪郭を形作った。
ハルスの掌に、ずしりとした感触が落ちる。
激しく神々しく虹色に輝く剣。
剣先に謎の時空機構を携えた狂気の一振り。
刃は澄み切って美しく、血や汚れを拒むかのように冷たい光を放っていた。
柄に触れる指先は震えていたが、その剣だけは微動だにしない。
「たった一度だけでいい……それ以上は……俺には出来ないし……俺がやるべきことでもない。そのあとのことは任せるさ……本物の勇者(英雄)に」
自分に言い聞かせるように、そう呟きながら、
ハルスは地を蹴った。
空間を、文字通り駆け抜ける。
肉体は軋み、肺は悲鳴を上げていたが、速度だけは異常だった。
存在値100前後とは到底思えない、理屈を無視した神速。
一瞬。
本当に、一瞬で。
バーチャとの距離が消えた。
理解が追いつく前に、視界が歪み、
次の瞬間、目の前に現れたハルスに、バーチャは声を上げることしかできなかった。
「あぁあ?! なんでだぁああ?!」
困惑。
怒りでも恐怖でもなく、意味不明な現状への純粋な混乱。
その腹部へ、
ハルスは一切の躊躇なく、『ヨグソード』を突き立てた。
この最終章クライマックスでは、要所要所で、合計5枚ぐらいイラストを投稿する予定です(*^-^*)




