6話 『およそ100』VS『1垓以上』。
6話 『およそ100』VS『1垓以上』。
覚悟を口にしてから、
ハルスは飛び出した。
一歩目で床が砕け、二歩目で音が消える。
人間の中では最強。
間違いない。
人間の中では最高速。
絶対に。
視界が直線に引き伸ばされ、剣が閃光となって振り下ろされる。
けれど、
「存在値100程度で、存在値1垓にケンカを売る……実に滑稽なジョークだと思わないか?」
その声は、斬撃よりも先に届いた。
ハルスが振り回している剣を、バーチャはその身で受け止める。
一切、避けることも、指で迎え撃つこともしない。
ただただ、黙って受け止める。
びくともしない。
剣先が皮膚に触れた瞬間、衝撃が逆流した。刃が滑り、力が吸われ、腕の骨にまで反震が叩き込まれる。
まるで、巨大なビルに向かって木の棒を振り回している子供。
バキリと、ハルスの剣が折れた。
金属音が虚しく弾け、破片が宙を舞う。
しかし、ハルスの心はまったく折れていない。
強く握りしめた拳でバーチャを殴りつける。
何度も、何度も。
拳が肉に当たる感触はある。
だが、手応えはない。
衝撃だけが自分に返り、骨が軋み、肉が裂け、血が溢れた。
皮膚が破れ、白い骨が覗いても、拳は止まらない。
それでも、殴り続けるハルスに、
――バーチャが、
わずかに顎を引き、感情の起伏を完全に殺したまま、口を開いた。
「1分だ……」
その声は低く、静かで、あまりにも淡々としていた。
だからこそ、宣告は刃よりも深く、確実に突き刺さる。
「あぁあ?!」
怒鳴り返した声は、すでに掠れていた。
肺の奥から絞り出した叫びは、空気を震わせることすらできず、虚しく霧散する。
「1分後に……セイラを壊す。徹底的に。あらゆる手段を使って、心と体を破壊する。それを……貴様に見せつける」
その言葉は、説明でも脅しでもない。
ただの事実予告。
時間という概念が、形を持つ。
それは数字ではなく、逃げ場のない刃となって、ハルスの胸に突き立てられる。
「……」
喉が詰まり、言葉が死んだ。
脳は必死に答えを探すが、掴めるものは何ひとつない。
ただ、残された時間だけが、無慈悲に、確実に、縮んでいく。
「さあ、どうあがく?」
小ばかにした笑い。
残酷で、醜悪で、無慈悲。
「はぁ……はぁ……」
何度も深呼吸を繰り返す。
空気を吸っても、胸の重さは消えない。
歯ぎしりをするたび、奥歯が軋み、血の味が滲む。
「くそ……がぁ……」
吐き出した声は、怒りですらなかった。
自分自身への呪詛。
自分の無力さ。
守れなかった理想。
何もできず、ただ立ち尽くしているという事実。
それらすべてが、骨の内側からハルスを震わせる。




