5話 望み。
5話 望み。
問い返しながら、ハルスは奥歯をかみしめる。
怒りと恐怖が、同時に胸の奥でせめぎ合っていた。
「本音が聞きたいだけだ」
「……返してください。お願いします。どうか、そいつを……傷つけないでください」
理性を削り取るように言葉を選び、頭を下げる。
その行為自体が、ハルスにとっては刃に等しかった。
恥辱と屈辱がないまぜになって爆ぜる。
ハルスの心をムリヤリ引っぺがしたバーチャは、そこで、満足げに微笑んで、
「――もちろん、ダメだ」
悪意の即答。
……続けて、
「こいつは殺す。凄惨に殺す。ただ殺すだけじゃない。そこらで見繕ってきた『ゴミみたいな男ども』にマワさせてから殺す。その全てを貴様に見せつける」
言葉が刃となって並べられ、空間に突き刺さる。
ハルスの視界が一瞬、白く弾けた。
「……なぜ、そんなことを……」
「貴様がセンエースだからだよ、ハルス・レイアード・セファイルメトス」
名を呼ぶ声だけが、妙に丁寧だった。
感情を、名前に乗せているみたい。
「オリジナルのセンエースは、危ないから、サクっと処理させてもらったが……貴様なら安全に遊べる。私の中では、いまだ、センエースに対する屈辱と憤怒が渦巻いている。それを……貴様で解消させてもらう」
「……なるほど……俺がセンエースどうたらってのは、いまだによくわからんが……その感情だけは理解できたよ。あんたの中で、『終わらない憤怒』が渦巻いている……よくわかったよ……それは、俺の中でも渦巻いているものだから」
言葉を紡ぐ間に、ハルスは深く息を吸い、吐いた。
怒りを制御し、刃に変えるための呼吸。
そう言いながら、ハルスは、回復魔法を使い、右腕を再生させる。
骨が繋がり、筋が張り、力が戻る感触が、確かな現実として伝わってきた。
剣を抜くと、切っ先が床を擦り、金属音が静寂を裂く。
「怒りが原動力だというのなら……頼んでもすがっても意味はないだろう。……てめぇを殺して奪い返す」
「そうだ。ようやく答えに辿り着いたな」
ニコニコと微笑んで、
「しかし、無理だ。絶対に。貴様の剣は、どうあがいても、私には届かない」
断言と同時に、場の魔力が一段階、重く沈んだ。
空気が粘性を帯び、肺に吸い込むだけで抵抗を感じる。
足元の床が軋み、存在そのものの格差が、物理現象として押し寄せてきた。
「……絶望的だな、センエース」
「その名前にどれだけ執着しているのか知らんが……」
そう言いながら、グっと腰を落とす。
重心が地に噛み合い、全身の筋肉が一斉に緊張する。
恐怖は消えない。
けど――
「もういいよ。好きに呼べ。ハルスでもセンエースでも……なんでもいい。てめぇを殺せるなら……それ以外にはもう、何も望まない」




