2話 心が留守。
2話 心が留守。
「泣いてすがりついて返してくれと喚いたら解放する……といったらどうする?」
一瞬、空気が軋む。
ハルスは一度舌打ちをして、
「……いちいち、ウザったいねぇ。俺は自分自身の瀟洒なアイロニーを誇りに抱いて生きてきたが……ミラーされると、まさか、ここまでウザいとは……反省するぜ。粛々となぁ」
明後日の方を見ながら、舌を出し、ぼそりと呟く。
逃げであり攻め。
これ以上、踏み込ませないための、彼なりの防波堤。
「なかなか、いいセリフ回しだな。流石、『センエース』だ」
「……は?」
唐突な言葉に、ハルスの眉が僅かに動く。
「最後の旅の唯一のツレとなる貴様に……貴様という存在の事実を教えてやろう。特別にな」
その言葉だけが、
異様な重さを伴って、ホールに落ちた。
「俺という存在の事実ねぇ……別にいいよ。知っているから。俺は俺だよ。人間の中では最強だったが、てめぇらみたいな『狂った化け物ども』の中ではゴミだったっていう、それだけの、ちっぽけな虫ケラさ」
自嘲混じりの声音。
だが、それは自己否定というより、先に言葉を置いて逃げ道を塞ぐ癖のようでもあった。
そんな彼に、バーチャは感情もなく、たんたんと、
「ハルス・レイアード・セファイルメトス……貴様もセンエースだ」
「……センエースってのは……てめぇの名前じゃねぇのか? 確か、名乗っていたよな。アマテラ……なんとかセンエースってよ。……あと、さっきお前が殺したやつの名前じゃなかったか? お前、ずっと、177番のことを、センエース、センエースって呼んでただろ。……あ、そういえば、二次試験でも、その名前を聞いたな。ランキング表にのっていたような……もう、あんま覚えてねぇけど。……どこにでもいるんだな、センエースってのは」
「ハルス・レイアード・セファイルメトス……貴様の正体はH型センエース1号。L型トリデサイゴ0号といってもいいがな」
「へー、そうなんだ。了解だ。今後はそう名乗るよ。えっと、なんだっけ? エイチガタ……あ、わり。忘れたわ。今度、文章でよこしてくれ。暗記しておくからよ。気がむいたらな」
「――『心をなくしたトリデサイゴ』という『ヌケガラ』をパチモンセンエースとして調整した存在。いわば、キング〇ムハーツにおけるソラにとってのロクサスのような存在」
「マジでナニ言ってんのかわかんねぇわ。俺、結構頭いいんだけどなぁ」
「ハルスという名前の由来は、ハートロス。あるいはハートが留守。ま、ようするにお前の名前はダジャレだ。パチモンでヌケガラで名前がダジャレ……最高にクールだと思わないか? もちろん皮肉だぞ。アイロニーは大好きだろう?」




