32話 月光の謳い手。
32話 月光の謳い手。
机上のノートPCの画面に、見慣れたスキルツリー。
錠前アイコンが、いっせいに爆発した。
画面の中の出来事なので部屋にもトコにも被害等はない。
「な、なんやねん……マジでっ……」
ほどなくして、脳内にメッセージが響き渡った。
〈――パーフェクトライターが『ミシャンドラ』に進化しました――〉
しばらく、意味が分からず、呆けていたが、トコはぼりぼりと頭をかきながら、
「……ミシャンドラ? あたしの異能……また、けったいな名前になったな……」
トコは小さくつぶやき、首をかしげた。
「ミシャンドラねぇ……どういう意味やろな。……えっと、たとえば『Misia』と『Andra』……とか? それやと意味的には……使命を背負った語り部? 詩を紡ぐ人間? ……うわ、めっちゃカッコつけすぎやろ」
照れ隠しで笑う。
「いや、もしかして、『Myth』と『Chandra』かも。神話の月……夜を照らす物語……とか? 野暮ったいあたしには似合わんな……」
息を吐き、苦笑する。
「でも、『Manus』と『Scribe』と『Andra』やったら……『原稿を記す人』『物語を世界に刻む書記』……この辺やったら、まだ許容範囲やな」
などとつぶやいてから、そこで、
「まあ、名前の由来とかどうでもええ。……問題は効果。進化したことで何ができるようになったんや?」
脳の中に『ミシャンドラに関する説明書』が『刻まれた』という感覚はあった。
頭の中でページをめくって確かめていく。
進化した異能ミシャンドラ。
その効果は破格。
――『ミシャンドラ』は、成長型であり、代償型。
とんでもないチートだが、最初から無敵ではない。
EXPを投じて段階的に強化する仕組み。
強化ゼロの初期段階では、どの効果も『使えるが限定的』という評価に留まる。
※【リライト】
・『投稿したエピソード』を『消す』と、『現実』も『なかったこと』になる。
・トコだけは記憶を維持するが、代償として『大事な記憶』が薄れる。
・『一週間前に投稿したエピソードを削除すると、一週間前にタイムリープする』……という認識で問題ない。
※【プロット】
・『ノートに描いた自分の未来』が現実になる。
・ノートにプロットを書き始めてから『5分以内』の『トコに関する事柄』に限定。
・代償は基本なし。ただし『物理的・因果的に起こりえない事』は実現しない。
・一言で言えば、プチデ〇ノートみたいなもの。
※【ドラフト】
・ドラフトは二つの力を持つ。まずは、『アカシックレコード』の『下書き層』へ接続し、この世界の『未確定稿』を垣間見る力。要するに未来が見える。――『直近の起こりうる未来』の『候補』が見えるが、観測したことにより確定的に分岐・漂流が起きる(無限に存在する未来の内の一つがちょっとだけ見えるが、見たことにより、だいたい未来が変化する)。
・もう一つは、『死者を一時召喚』して助力を要請することができる力。召喚された者の力量はミシャンドラの成長度に比例。
※【プライド】
・『神がかった最高傑作』を描ける。
・代償:『死ぬ』。




