表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【コミカライズ】センエース~舞い散る閃光の無限神生~  作者: 閃幽零×祝百万部@センエースの漫画版をBOOTHで販売中
永久閃光龍神M章 ミシャンドラ。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6015/6035

26話 俺の奴隷にしてやる。


 26話 俺の奴隷にしてやる。


「誇っていい。存分に悦に浸っていい。さあ、言えよ。俺より不幸なやつはいない! 俺こそが最強だ! ってよ」


「……」


「俺は、今までにお前より不幸なやつを散々見てきたし、俺自身が受けてきた苦悩や絶望も、お前より上だという自負があるが、しかしそれがどうした? そんな不都合な現実を、お前が受け入れなければいけない理由はなんだ?」


「……」


「この世は、基本的に、等価交換。世界一不幸な男には、世界一の幸運が舞い降りる。例外もあるが、基本はバランスがとられるようになっている」


 センの口元に薄い笑みが残る。

 言葉は軽いが、どこか断定的。


 ラットの胸の奥で、冷たい期待と嫌悪が交錯する。


「な……なんだ、急に……幸運って……それは、いったい、どういう」


「お前に、人生最大のチャンスをくれてやる。世界一の幸運と断ずるにいささかの躊躇も持たぬチャンス」


 その告知に、周囲の囚人たちの息遣いが僅かに揃う。

 『何をする気だ?』と、誰もが耳目を注ぐ。


「……金でもくれるのか?」


 ラットの唇が震える。

 期待か、嘲りか――自分でも判別できないよどみが混ざった声。


「俺の奴隷にしてやる」


 言葉が落ちると同時に、ヤードの空気が一拍遅れて震えた。

 遠くで笑いが漏れたが、それはすぐに消える。


「……ふざけるな」


「ふざけるのをやめたら、俺が俺でなくなってしまうぜ。『不愉快にラリってんのが俺という男の全部』なんだから。マジで、それ以外には何もないと言っても過言じゃねぇ。あとは、ちょっと根性があるくらいか」


 などと言いながら、センは、ラットの頭から足を離した。

 砂の上で靴底の跡が薄く崩れ、血のしずくが一つだけ落ちる。


 センは指を鳴らし、短く息を吐いた。

 ひび割れた地面に淡い紋がにじみ、光が糸のように編まれていく。


 風が一瞬だけ逆立ち、空気の重さが入れ替わった。


 次の瞬間、地面に描かれた小さなジオメトリの上に……一匹の猫が顕現。

 灰色がかった白。

 目は琥珀色。

 喉の奥で小さくゴロゴロ鳴り、尻尾だけがゆっくり左右に揺れている。


「な、なんだ、その猫……どうやって……どこから出した……?」


「何か気づかないか?」


「なにか? なにかって……」


「よく見ろよ」


 言われて、ラットは、その猫をじっと見つめる。


「…………え……まさか……ベン……?」


 ラットの瞳が大きく開く。

 猫は一歩、二歩と近づき、迷いなくラットの胸へ額を押しつけた。

 ラットの荒い呼吸の鼓動に合わせて、ごろごろとノドを鳴らす。


 人生で一番苦しかった時、その柔らかな表情に救われた。

 だから、形が変わっても理解できた。


「よくわかったな。この猫は、お前が飼っていた犬……の転生した姿だ」


「……ぁ……ああ……」


 ラットは砂に膝をつき、そっと抱き上げる。

 『転生』という概念に疑問を抱く余裕すらなく、ただただ、目の前の愛しさだけをかき抱く。


 小さな体温が腕に宿り、震えが少しずつ収まっていく。

 猫は前足でラットの胸元をふみふみと踏み、スリスリと頬を擦りつけた。


 壊さないように、けれど、出来るだけ力強く想いのままに猫を抱きしめるラット。

 ボロボロと涙を流した。

 嗚咽が止まらない。

 心の器に、暖かな水が注がれていく。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
自作コミカライズ版36話公開中!ここから飛べます。 『センエース日本編』 また「センエースwiki」というサイトが公開されております。 そのサイトを使えば、分からない単語や概念があれば、すぐに調べられると思います。 「~ってなんだっけ?」と思った時は、ぜひ、ご利用ください(*´▽`*) センエースの熱心な読者様である燕さんが描いてくれた漫画『ゼノ・セレナーデ』はこっちから
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ