24話 ドブネズミみたいに美しくなれるか?
24話 ドブネズミみたいに美しくなれるか?
プライドはゼロ、命はひとつ――それがラットの処世術。
誰かのせいにして、自分を守る。
悪いのはいつだって他人。
口先だけが、たった一つの命綱。
……だが、ジョンは冷めた顔で笑い、首を振る。
「ラット……お前の居場所はもうねぇよ。お前は賭けに負けたんだ」
「……そ、そんなこというなよ、ジョン。俺は使えるコマだろ? 利用しろよ」
返事の代わりに、拳が飛んだ。
乾いた音。
歯が折れ、血の味が舌に広がる。
「ああ。サンドバッグとして利用してやるよ。今後、一生な」
「う……うぅ……」
「卑しいドブネズミが……何度も、何度も、俺の獲物を横からかっさらいやがって……絶対に許さねぇからな」
(……ずっとこうだ……ずっと、ずっと……)
熱い涙が勝手にこぼれ、ラットは慌てて袖で拭った。
だが、間に合わない。
「おいおい、こいつ泣いてやがるぞ。情けねぇ野郎だ」
嘲りが輪を伝って広がる。
ラットは唇を噛み、地面の砂を見つめるしかない。
立てない。反撃もできない。
弱さは罪に等しい。
罪には罰がふさわしい。
――と、そこで、
「――これこれ、そこの少年たち。亀をイジメてはいけないよ」
その声が、空気の温度を一段下げた。
潮の匂いと砂の粉っぽさが一度に引き、ざわめきが細くなる。
センの一声で場の熱がすっと冷めた。
視線が揃って振り向く。
ヤードの入口、刑務官の背を遠巻きに、センが立っていた。
ジョンは、割って入ってきたセンを見て、冷や汗をかく。
「せ……センエース……」
取り巻き連中も意気消沈。
砂を踏む音だけが残る。
センはゆっくりとジョンたちに近づいた。
ジョンの肩にポンと手を置き、
「へい、ボーイ……悪いが、そのネズミ、俺に譲ってくれないか?」
「……っ」
「どうした、ビッグボーイ。俺の言葉が聞こえなかったか? 耳元で大声を出した方がいいかな? 最悪、鼓膜が破裂して聴覚を失うが……でも、まあ、それでも視力を失うよりはマシだろう」
「……あ、あんなネズミなんか……どうでもいい。好きにすれば……いいだろ」
ジョンは肩をすくめ、すごすごと下がった。
取り巻きも目を合わせないまま散っていく。
ヤードの空気が弛緩する。
ラットは顔を上げ、赤い鼻息を震わせた。
「……助けて……くれたのか? ……なんで……」
救済の理由を尋ねるラットに、
センは、
――『問答無用の拳』を顔面に叩き込んだ。
「ぐぁああ!」
鼻が折れて視界が血に染まった。
鉄の味で舌が麻痺する。
痛みでのたうつラットの頭を、センはガツンと足で踏みつけて、
「……俺に生意気な口を叩くなよ、ベイビーボーイ。俺がお前を助けた? 勘違いも甚だしい。……俺は、さっきのお兄ちゃんに獲物を横取りされたくなかっただけだ」




