21話 魔法のクオリティごとに『制御難易度が違う』のは当たり前。
21話 魔法のクオリティごとに『制御難易度が違う』のは当たり前。
結局のところ、今回の会議では『現状維持』という結論で落ち着いた。
――ヒッキエスには不介入。
センエースを刺激しないことを最優先。
……画面が次々と落ち、所長室に静けさが戻っても、所長の肩の重さはわずかも減らない。
机上には復旧見積と追加予算の稟議書、そして提出できない辞表の下書きが重なっている。
所長はこめかみを指で押さえ、閉じかけたモニターの黒い鏡に自分の顔を見た。
――本当は辞表を出して逃げたかった。
けれど抗えない命令で縛りつけられて、ここに座っている。
「なぜ、私がこんな目に……」
ため息だけがいつまでも部屋の中に残った。
★
ちがう房にうつされたヒッキエス。
壁は新しい防爆パネル、床は弾性の高い合成樹脂、監視カメラは二基に増設されている。
簡易の机と分厚いマットレス。
前の房より、あきらかに広くて静か。
魔導書を丁寧に読み込みながら、魔法の練習をはじめた。
腹下の一点に意識を置き、息を細く吐き、指先へ圧を送る。
血管ではなく、もうひとつの管を通す感覚を何度も往復させる。
――見えない導管を通してMPを手に集める基礎練習。
力の通り道を体に覚え込ませる。
「これがMPの使い方か……なるほど……」
掌の温度が均一になり、震えが消える。
右手と左手で密度の差がなくなる瞬間を、呼吸の拍に重ねて固定する。
もともと学習能力が高いので、反復が早い。
微修正→検証→固定を短いサイクルで回し、着実に身体化していく。
「これは面白いな……」
楽しくなってきた勢いで、小さな実験も挟む。
まずは点火の式を短縮し、指先にだけ熱を載せるつもりで――
「……『火炎ランク19』……」
ぼっ、と『芯だけが強い火』がともる。
狙いより一桁強い。
ぐっと部屋の温度があがり、マット端のシーツが茶色く焦げ、煙感知器が赤く瞬いた。
慌ててMPで酸素を落とし、手のひらで叩いて鎮火。
胸に残るのは、わずかな焦げ臭さと、配分ミスの悔しさ。
「くそ……なかなか思った通りの出力にならない……魔力を練る際の安定性をもう少し固めないと」
今度は守りの検証。
バリアを展開する式を組んでいく。
「――『ドリームオーラ』――」
全身を包む守りのオーラはすぐに出た。
あまりにも出すぎた。
房全体を満たす白膜がぶわっと膨らみ、MPが一気に抜ける。
脳の奥がズキンと痛み、視界のフチが暗くなった。
フラついて壁に肩をぶつけ、額も軽くヒット。
「ぐぎぎ……ま、魔法の種類によって……コントロールの難易度が違いすぎる……」




