19話 大爆破。
19話 大爆破。
「……だいたいわかった……やってみるか」
ためしに、右手に魔力をためてみた。
腹の底で熱がたぎり、肘を通って掌へ押し出される。
――エネルギーの移送。
異質な力が手に集まる。
「ぉお……出た……」
右手に淡いオーラが充満していくのを感じる。
しっかりと可視化もされており、まさにアニメのように、
右手がごうごうとした『光の炎』に包まれている。
「……この魔力に……適切な公式をあてはめると……魔法として顕現する……で、あっているのかな?」
本を読んで確認しつつ、呼気と拍動を合わせる。
『肉体強化魔法』の使い方が記されていたので、実際にためしてみた。
「……えっと……――『武装闘気』――」
次の瞬間、ヒッキエスの全身を魔法の鎧が包み込む。
筋繊維が鳴り、関節が新しい可動域を得て、視界が一段明るくなる。
――身体パラメータの全てが常識を置き去りにして急上昇。
すさまじい強さを得たのを実感する。
……が、あまりにも凄まじすぎて、制御できなくなる。
右手の小指一本を思い通りに動かすことすらままならない。
「う、うぉおおおおっ!」
MPのコントロールの方法をイマイチ理解できていないのが根本の原因。
センから借りた20億のうち、誤って、200万ほどを一気に使用してしまった。
その結果、異常なほどのスペックの肉体強化魔法が発動してしまう。
今のヒッキエスは、さながら『間違えてF1カーに乗ってしまった幼稚園児』。
――ハンドルもブレーキも重すぎて動かせない。
全身全霊体躯全部が出力過多で手に負えない。
足が床をえぐり、体が勝手に跳ね、重心が前につんのめる。
反射で抑えようとした腕が逆に推進力を生み、身体が回転した。
その場で転倒。
風圧だけで、コンクリートの粉塵が舞い上がる。
つづいて――
ズガシャアアアア!
房の壁が、内側から扇のように開いて砕け散った。
鉄筋がのたうち、警報が一拍遅れて目を醒ます。
――初めての魔法、初めての大事故。
強化は成功、運転は大失敗。
「う……わぁ……」
ヒッキエスは、ぶっ壊れた壁を見て、呆然とすることしか出来なかった。
「……は……はは……ふざけているな……なにもかも……」
呆れた笑いを口にしつつ、
「このパワーがあれば、このまま壊れた壁の向こうに跳び出して、好きなところに逃げる事も出来るなぁ……」
――などとも、一瞬だけ思ったが、
「……センエースに聞きたいことが……山ほどあるな……」
だから逃げなかった。
どうにか魔法を解除して、
山ほどの刑務官たちが駆けつけてくるのを静かに待った。




