18話 どうせヒマなので……
18話 どうせヒマなので……
センエースの論理が、本当に一ミリも理解できなくて首をかしげるヒッキエス。
そんな彼の動揺など無視して、センは、淡々と、何事もなかったかのように続ける。
「本当なら、お前に、『肉体強化系の力』をくれてやって終わりにするつもりだったが……お前の能力は、今後の役に立ちそうなんでね。本格的に魔法修行をしてもらうことにした」
「魔法修行……ほ、本当に、おれが魔法を……」
「じゃ、そういうことで」
ヒッキエスの答えなどまったく待たず、そそくさと自分の房に戻る、あまりにも一方的すぎるセン。
「……な、なんなんだ、あいつは……」
残されたヒッキエスは、手の中の魔導書に目を落とす。
革は乾き、角は欠け、紙は羊皮紙のように厚い。
「……ばかばかしい……何が魔法だ……なにが20億のMPだ……」
そう思うが……
理性と好奇心が綱引きをはじめる。
運動会の結果は割とすぐに出た。
「…………まあ、どうせ、獄中ではヒマだしな……」
やることも特にないので、暇つぶしとして、魔導書を読んでみることにした。
ページを繰るたび、乾いた匂いが鼻腔を撫でる。
情報の砂漠を歩く感覚。
読むだけで喉が渇く錯覚。
序章では、魔法に関しての知識が描かれていた。
インクは褪せて、古典語と術語が交互に波打つ。
「――魔法の元たる『マナ』とは、虚空と大地のあわひに瀰漫すべき霊素、すなはち魔素の総称なり。万の術はこれを糧として律を得、これなければ一指も動かず。されどこの星は、元よりマナを孕まず。枯渇にあらずして本不在、初めより其の理無し。ゆゑに凡そ人の子は、常道において魔法を振るふ能はず――」
魔導書だけあって、無駄に、ものものしく、古めかしい言葉で書かれていた。
ヒッキエスは、旧い言葉遣いに精通しているわけではないが、その卓越した読解力で読み解いていく。
――要点の抽出。
本質的な知性が試される場面。
「……つまり……魔法を使うにはマナが必要だが、地球にはマナが存在しないから、基本的に魔法を使う事ができない。ただし、特定の条件下にある者や、その条件を満たした者と契約を交わしている者などは例外的に魔法を使うことができる、と。センエースは条件を満たして、そのセンエースとおれは契約を交わした状態にあるから、いまはおれも魔法を使える……って感じか」
つづけて、マナや魔力の扱い方に関して学んでいく。
『導管の形成』『詠唱の省略』『制御係数の初期値』――式と図が延々と続く。
――理屈は多いがヒッキエスの頭脳なら理解できる範囲内。




