14話 なにしてんねん、キモいのう。
14話 なにしてんねん、キモいのう。
6歳になったセンエースは家を飛び出し、スライムを狩って、必死にレベルを上げていた。
センは、お小遣いをためて購入した武器――『キノキの棒』を硬く握りしめ、スライムをたたき潰す。
それを延々と繰り返す。
日が傾く。
近場の洞窟で眠る。
夜明けと共に狩場に出る。
スライムは無限に湧いて出た。
潰して、潰して、潰し続ける。
一日の討伐数が1000匹を超える頃、
腕は痺れ、足裏は土の硬さを覚え、
目は粘度の揺れを先回りして追いかけるようになった。
それを毎日続ける。
飽きることなく。
いや、飽きるとか関係なく。
延々と、淡々と、センエースはスライムを殺して経験値を稼ぎ続ける。
毎日、毎日。
5日……
10日……
1年……
10年……
「いや、あの怪物くん……ずっと、スライム倒してんねんけど……10年ぐらいずっと。……ぉ、おもんなぁ……全然、画替わりせぇへん。……もっと、他のモンスターも倒したりせぇよ。アホちゃうんか、こいつ」
トコは眉をひそめつつ、続きを確認する。
季節がめくれる。
緑は濃く、風は冷たく、降り始めの雨は足場を奪う。
それでもセンはスライムを殺す手を止めない。
町にも、人にも、祝い事にも背を向け、
ただひたすらにスライムを殴り殺し続けている。
「え、これ……いつまでやんの? 最初子供やったのに、もう今、オッサンになってんねんけど……」
30歳を超えても、センは、まだ森でスライムを狩っていた。
その様を見て、トコは、
「びょ、病気……」
素直にそう思った。
まるで『最初の村の外でカンストまでやってみた』を地で行くような、狂気のやり込み。
拳は土に、空気に、粘性に馴染み、
周囲の世界が半拍遅れて追随するかのように見える。
命が一撃へ凝縮され、腕は振らず、肩は鳴らず、背骨は一本。
荒事の華やかさはない。
ただ『正確さ』だけが世界に残る。
センエースの拳は『常軌』を置き去りにしていた。
――そこで、『300万分の遠景』は幕を閉じる。
間違いなく、300万の価値はなかった。
いや、ある意味で、その価値はあったかもしれない。
面白い映像ではなかったが、センエースの異常性を垣間見ることができた。
「終わりかい……経験値を300万も払って、スライムを殴るところしか見られんかった。ぼったくりもええところやな……」
と、そこで、『つづきを見るために必要なポイント』が表示された。
《センの記憶・遠景》――必要EXP:300,000,000
所持EXP:1,112,776,731(使用可能)
「3億……まあ、払えるけど……一気に跳ね上がるな……そんだけ払うんやから、流石に、さっきよりはマシなもん見せてくれよ……」




