12話 チートを与える神。
12話 チートを与える神。
――今は誰も咳払い一つしていない。
監獄の中であることを差し引いても、だいぶ異様な空間。
「お前、名前は?」
「……ヒッキエス」
「よろこべ、ヒッキエスくん。お前にも魔法をかけてやろう」
「視力を失うのは勘弁だ」
「そういうのじゃなく……異世界転生における魔法みたいな感じ。俺が神様役になって、お前に異能を与える」
「はっ……それって、日本のアニメでよくやっているやつか」
「そうそう、まさにそれ」
「ばかばかしい。悪いが、ファンタジーの類は信用しないようにしている。ガキのころ、親の知り合いが、スピリチュアル商法に引っかかって大損をこいているのを見たことがあるんでね」
「その心構えは大事だぜ。今後も大事にしなよ。霊感商法に金を出しちゃいけない。これは生きていく上での常識だ。ゆえに、俺は金をとらない。お前はただ、望外の奇跡を謹んで享受すればいい」
センが指を鳴らした。
乾いた音の直後、空気がきしんだ。
謎の形状のジオメトリが、ヤードの地面一杯に広がっていく。
周囲の囚人たちが一斉に、
「な、なんだ、これ」
「これ……え、もしかして……魔方陣的なやつか?」
「ハリーポ〇ター……?」
ざわざわと、恐怖が伝染する。
監視台の刑務官が、双眼鏡を握り直した。
センを注視する。
隣の刑務官は、いつでも逃げられる体勢を取っていた。
(センエース……いったい、何をする気だ? あの魔方陣……まさか、『ここにいる全員を殺す魔法』とかじゃないだろうな……)
刑務官の視線の先で、センが、
「よし、これで――あれ?」
小首を傾げる。
「んー?」
と、悩んでいるセンエースの視界の隅で、
ヒッキエスが、ゴクンと生唾を飲みながら、ぼそっと、
「……な、なにをしたんだ? 今の光はいったい……」
そんなヒッキエスの疑問符をシカトして、センは、頭をぽりぽりとかいて、
「おかしいな……ゴールドスペシャルの『破格の風格』をくれてやろうと思ったのに……なんか、変な能力になった……これは……どういうことだろうな、と」
そこで、センは、虚空に向かって指をスイスイと動かす。
その結果、
「……ああ、なるほど。コレは、お前がもともともっていた力か……」
「おい、さっきから何を――」
「能力名は……『プロメテウスファンド』。他人から借りたMPを運用することができる力。なかなかイカついプラチナスペシャルじゃないか」
言葉は軽いが、内容はとんでもなかった。
★
――日本。
六畳ワンルーム。
薬宮図子はベッドに仰向けになり目を閉じていた。
胸の内側で、薄い糸みたいな感覚がピンと張っている。
視界は部屋を離れ、海の向こう――サン・クエンティンのヤードへ。




