トコ3話 バズりかけた夜。
トコ3話 バズりかけた夜。
薬宮図子の古びたノートPCが、深夜のワンルームで唸っていた。
ブラウザをリロードするたび、数字が跳ね上がる。
PV:209 → 340 → 720 → 1,200。
ブクマ:4 → 19 → 42。
(……バズっては……ないか? このぐらいやと……)
まだまだ数字は大人しい。
しかし、コメントが怒涛のように流れてきた。
『この文章、ヤバい。震えた』
『臨場感えぐwww』
『タイトルで笑ったけど、読んだら普通に凄くて引いた』
『続きはよ!』
胸が熱くなる。
『文章下手』と書かれた昨夜の感想が、もう遠い昔のことのように思えた。
★
テレビは、ずっと『渋谷特番』を垂れ流している。
センエース以外のニュースを取り扱うと視聴者から苦情の電話がくるので、CMも流せていない様子。
CNN、BBC、NHK――どこも『神か悪魔か』の討論ばかり。
みんな、センエースを知りたがっている。
(もうちょっと、センエースについて分かれば……ちゃんとバズるかも……)
そこで、トコは、チラっとノードを確認する。
《現場同期:センエースの視界》(必要EXP:3000)
現在EXP:897
(読者にもっと見てもらえたら……センエースの視界を解放できる……そしたら、もっと……)
呼吸が速くなる。
『現場の視界』――もしそれがトコの解釈通りなら、
あの長羽織の男、センエースの目を通して世界を覗けるということだ。
「臨場感が全然違う……当人の視点……本物の感覚……それが、スキルと合わさったら……」
ドクドクと脈うつ血管の鼓動を感じながら更新ボタンを押す。
数秒で通知が弾ける。
PV:1,200 → 1518 → 2725。
ブクマ:42 → 89 → 208。
EXP:897 → 3012。
(……あれ? 計算おかしない? なんで3000をこえたん?)
画面の片隅に、小さな文字が浮かんだ。
〔裏ステータス:読者熱量〕
『熱狂・震え・共感・恐怖』が数値に加算されます。
(……【読者熱量】……感情そのものが数値になるとか、どうやって計測してんねん。オカルトやん。……最初からそうか)
ノードが、光る。
《現場同期:センエースの視界》――解放可能。
トコは息を呑んだ。
(……押す? ま、押すしかないやろ……)
夜のワンルームの空気が、妙に熱を帯びていく。
その瞬間、テレビからセンエースの姿がまた映し出された。
世界中が震えている。
――けれどトコは、画面ではなく、目の前のノードを見つめていた。
「ほな、行こか……」
指先が、光のボタンに触れた。




