6話 世界の電源。
6話 世界の電源。
「17番は、僕を守るためだけに奔走してくれた。それがどれだけ嬉しいことか……蝉原……きみには分からないだろうね」
「まあね。守られたいと思ったことがないからね。それはそうと……君は、今後も、この世界で生きていくのかい?」
「もちろん。ここなら、誰にも邪魔されず、ずっと、17番と生きていけるから。二人だけで生きるのもいいけれど……元の状態の方が、17番の精神安定的には最良だと思うから、センエースを原初の世界に戻したあとは、世界を再生させて」
「それは別にかまわないけれど……この世界の維持を、君に任せることになるよ。俺は絶対にやらないからね。そんな無意味な面倒」
「維持は主神が……って、もしかして、蝉原……きみ、『最後の魔王の世界』の『主神』を殺したの?」
『主神』は世界の管理人。
法則や命の流れを点検し、必要な場所へ『エネルギー』を回す番人。
たとえるなら『発電所の管理人』。
「ああ、邪魔だったからね」
「……」
驚きというより、予定表が崩れたときの戸惑いが滲む。
『主神』を殺すというのは、たとえるなら、『町の配電盤を外す』のに等しい。
あるいは、ゲーム機の電源を切る行為。
やってはいけない禁忌の中の禁忌。
「今日までは、俺のTS異次元同一体『蝉原優雅』に主神を任せていた。もう元の次元に返したから、今は一時的に俺が代わりに世界の維持をやっている。けど、センくんが『原初の世界』に帰ったあとは、この世界に用はないから、もう、俺は、この世界のためにエネルギーを回すことはしない。どうしても、この世界で生きていきたいなら、君が代わりにやってくれ」
世界を維持するとは、灯りを消さないために燃料を継ぎ足し、止まりそうな柱時計にぜんまいを巻き続けることに近い。
「勝手に『主神(中枢管理システム)』を排斥したのだから、責任をとって、あなたがやってくれない?」
求めているのは懇願ではない。
『壊したなら責任をとりなさい』という当たり前の言い分。
だが、蝉原は笑って、
「責任? 悪人の俺が、そんなものを尊ぶと思うかい? 責任を取らずに好き勝手する者のことを、定義的に、悪人と呼ぶんだ」
「勝手なやつ」
「正当な評価だね」
★
――9番を『最後の魔王の世界』へ送り返し、
残りのログと破片を『一つずつ棚に戻す』みたいに片付けていく。
作業机の天板は冷たく、
モニターのフチだけが丁寧な脈を打つ。
蝉原は指先で時刻を確かめ、
椅子の背に浅く体重を預けた。
――後処理を終え、時間確認。
「そろそろセンくんを原初の世界に返そうかな……」
言葉に出した瞬間、
――空気の毛並みが逆立つ。
作業場を包む『静圧』が、音もなく減っていく。
――ゾワっと、違和感がわきたつ。




