2話 上手に稼げましたーっ!
2話 上手に稼げましたーっ!
「……問題なのは、俺が、『自分は絶対に正しい』と上手く適合できないこと……あのスペシャルは扱うのが難しすぎる。最終的には奪い取りたいところだけど、俺じゃあ、使えないなぁ……どうしたものかな……ゼンドウをゼンドウとして運用するのは、普通に、キモいから嫌だし……うーん……」
――などと考えつつ、蝉原は回収作業を続ける。
仕事が山ほどある。
視線は次へ。
「……よし。20番も回収完了」
ポン、と軽い音。
床の上に、気絶した少年が転がる。
『20番』。
微動だにしないので、生きているかどうか微妙な状態だが、顔色は悪くない。
「よしよし……ちゃんと、『センくんが獲得した分の経験値』を奪い取れているな。センくんが、この世界で獲得した経験値の……だいたい7パーセントってところか。十分、十分。というか、多すぎるぐらいだ」
ホクホク顔で微笑んでから、
「強制分離、開始」
端末に短いコマンド。
20番の体表に細い線が走り、二つの影がゆっくり離れる。
片方は、全身傷だらけのゴリゴリのマッチョ青年。
もう片方は、性格が悪そうな男子高校生。
ふたりは背中合わせに倒れて、同時に小さく息を吐いた。
ひとつの器に入っていた『ふたり』を表に出した形式。
蝉原は立ち上がり、高校生の前でしゃがむ。
指先で彼の前髪をどけた。
呼吸はある。
深い眠り。
「音文……おーい」
呼びかける。
反応なし。
蝉原は胸ポケットから『ライター(ヘムへム)』を取り出した。
「ヘルなフレイムを相手の耳にシュゥウトッ! 超ッ、エキサイティングッ」
ショボっと点火。
火は小さいけれど、その熱さは地獄の業火。
音文の耳たぶを、蒸発するほどあぶる鬼畜蝉原。
「うわちっ!!」
音文は、跳ね起きた。
燃えている耳を、ばたばたと手ではたいて鎮火させる。
視線が泳いで、すぐ蝉原を見つける。
ギュっと眉を寄せて、遺憾の意を示した。
蝉原は立ちあがって笑う。
声は温度が低い。
「おはよう」
短く、それだけ言いながら椅子に座った。
場の空気が戻る。
モニターの光がまた肌に薄く乗る。
音文は、イライラ顔で、
「ライターで起こすクセ、やめろや、うぜぇな」
「くくく」
と、蝉原は一度楽しそうに笑ってから、
「どうだい? 『さいごのまおうのせかい』での人生は楽しかったかい?」
そう問いかけると、音文はブスっとした顔で、耳に回復魔法をかけながら、
「……楽しいわけあるかい。奴隷だったんだぞ。なんか、ずっと、知らんオッサンと一緒にされていたしよぉ」
「彼はキズハラセイヤだよ。プライマルメモリの主人公の一人だ」




