1話 お喋り機能。
1話 お喋り機能。
特殊亜空間――現世から隔離された作業領域。
――『蝉原勇吾』は、山ほどのモニターを前に椅子を少し後ろに倒した。
視線だけが忙しい。
しかし、口元は、いつもと同じでゆるい。
ニタニタと、この世の全てを小ばかにしたように笑っている。
「流石にこの程度は楽勝だね。センくんは本当に強いなぁ」
ドロっと黒く笑って、胸ポケットから端末を出す。
究極端末――『G‐クリエイション・蝉』。
蝉原専用の特殊神器。
画面の上、指先がすべる。
すいすいとコマンドが走った。
その直後、蝉原の目の前に、一匹の禍々しい携帯ドラゴンが現れた。
「アベル、おかえり」
「センエースは強すぎる。あれに勝つのは不可能だと思うよ」
「おっと、『おしゃべり機能』をオフにするのを忘れていた……」
そこで、蝉原は、サクっとアベルから言語を奪う。
「きゅいっ」
としか鳴けなくなったアベルに、
「俺に対して、『センエースに勝つ不可能性』を解くのは釈迦に説法だよ。ちなみに俺は釈迦が嫌いだ。言っていることが目茶苦茶だからね。……今おもったけど、俺って、センくん以外のすべてが嫌いかも」
「きゅいっ」
何か言いたげなアベルに、蝉原は、
「お疲れさん。しばらく休んでていいよ」
そう言って、アベルを自分の中へと格納していく。
その後、蝉原は、アベルのステータスを確認しつつ、
「やっぱり、センくんと戦った経験値はすごいねぇ……一気にアベルが強くなったよ。ありがたや、ありがたや」
などと言いつつ、さらに『蝉』を操作していく。
「ゼンドートも回収完了、と」
空気がたわむ。
蝉原の目の前に、『ドロドロに崩れたゼンドート』が現れた。
重く、ぬるい音。
においはしない。
「ゼンドートが獲得した経験値もハンパじゃないな。よきかな、よきかな。……そのまま、あますことなく、ゼンドウに統合、と」
蝉原は横へ視線を流す。
そこには、宙に寝かされているような男が一人。
――『ゼンドウトクシン』。
呼吸は極めて浅く、動きもまったくない。
生きているかどうか微妙に不明瞭。
端末をひと撫で。
指が軽く跳ねる。
ドロドロのゼンドートがヒュン、と飛ぶ。
ゼンドウの胸へ吸い込まれていった。
波紋みたいな光が一度きれいに広がる。
統合完了。
ゼンドウトクシンの存在値が一気に膨れ上がった。
「ゼンドウも、なかなか育ってきたなぁ。センくんに、あれだけ対抗してみせるとは……今の状態でも、もう相当なものだけれど、ゼンドウはまだまだ可能性を秘めている」




