210話 てめぇを殺す。
210話 てめぇを殺す。
剣翼は枚数を増やさずに演算密度だけを上げ、詩の回路は遅延ゼロの直結へ。
またたく、いななく、命が通る。
「俺の最終固有神化はてめぇの薄いソレとは違って歴史がハンパねぇからな……勝ち目のない絶望を前に震えて眠れ」
空気の粒が、センに従って整列する。
ただ立つだけで、世界の方が姿勢を正す。
「17番のアレコレはあとだ。今はとにかく……てめぇを殺す」
背の毘沙門天は清音で回転し、
円環の核に流れる神字が脈拍と同期して明滅する。
――基礎出力と制御精度が、死の境を越えて一段上がっている。
「……今の俺の存在値は100京そこそこ。……お前の真理道徳神化3の方が出力は遥かに上だが、戦闘力の差がエグいからな。十分勝てる数値差だ」
ゼンドートの眼孔に怒色が刺す。
足裏が地面を鳴らし、間合いを叩き潰す勢いで踏み込んだ。
「その程度で、僕に勝てる道理はなぁあああい!!」
殴撃は直線。
削るような速さ。
詰めるような重さ。
捻じ伏せるような連打が、呼吸一拍の中へ全部突っ込まれる。
センは首の傾きと足の入れ替えだけで、すべての線を紙一重で外す。
反撃はない。
ただ、いなす。
流し、捨て、抜く。
「悪いな、ゼンドート……俺の相手をするには……お前は、ちょっと弱すぎる」
「僕が……弱い? 脳が腐っているのか?!」
「絶対評価上では最高クラスだが……俺を基準に相対的な評価を下すと、ティアA評価が限度だな。ちなみに、そのティア表における俺の評価はSSSSSSSSSSSSSSSSSだ」
「ずいぶんと自己評価が高いことで! 無能の証だな! グズほど、自分に過剰な高評価をつけたがる!」
「宇宙よりでっかいブーメランが眉間に刺さってんぞ。大丈夫か? 救急車呼ぶ?」
「中身のない戯言ばっかりほざきやがって! 数値だけではなく、戦闘力も、僕の方が遥かに強い!」
「それ、マジで思ってる?」
「当然だ! 僕は僕の絶対正義を疑わない! 絶対正義とは完全なる最強のこと! なぜなら、正義は負けないからぁああああ!!」
叫びが終わる前に、色が変わった。
ゼンドートの全身に鮮烈な赤が絡みつく。
血管の一本一本が発光するみたいに皮膚下で煮え、
呼気の熱が床石を乾かし、輪郭が赤黒い残像を引く。
――まるで、寿命と臓腑の余剰を燃やして、出力を無理やり引き上げているみたい。
その瞬間、場の圧がまた一段、重くなる。
ゼンドートの数値は250京へ跳ね上がり、力学のかみ合わせも粗暴に底上げされた。
「僕の全部を使ってでも! お前だけは殺す! 僕を見下すことは絶対に許さない!」




