208話 ボクにできること。
208話 ボクにできること。
9番は『鎧』となり、17番を包み込む。
17番は、自分の両手を見つめながら、
「わけわからんけど……できることは増えたな。ありがとう……おかげで、守れる……たぶん……きっと……」
龍装をまとった17番は、
理解もそこそこに、
「いくぞ……ゼンドート」
ひと息で踏み込み、
右の拳に9番の鼓動を重ねる。
ゼンドートの顔面に向けて、とびっきりの一撃を放った。
――衝突の瞬間、17番は拳に想いを込めた。
衝撃ではなく、縛りを通すための接触点。
バチリと、弾ける音がしたが、ゼンドートは、微動だにしない。
「恐ろしく程度の低い拳。ダメージになりえない」
ゼンドートの余裕の仮面は崩れない――はずだったが、
「……むっ」
次の拍で眉間が微かに寄る。
17番は、視線を外したまま、たんたんと、
「当然だよ。威力は無視して、呪縛に全振りしたんだから」
言葉の終わりにかぶせるように、
ゼンドートの影に、
――ダダダダダダと『無数の釘』が打ち込まれていく。
「……っ」
動けなくなるゼンドートを見つめながら、17番は、
「ボクに出来るのはここまでだ……あとは頼んだぞ、センエース」
両掌を胸前で合わせ、
己の中心線を一本の柱のように立て直した。
言葉が静かに降りる。
祝詞の列。
母音が長く、子音が短い古い祈り。
「ボクの体を媒体にして……甦れ、センエース。頼むから、どうか、9番だけは守って……」
掌の間に、ほのかな光がともる。
それは灯火ではなく『名前』の断片だった。
17番は迷いなく、その光へ、
自分のオーラも魔力も、そして寿命の糸までも注ぎ込む。
背中側で九つの護符が羽根のように開き、上から順に燃えて消える。
9番は、17番を包み込んだまま、何も言わずに全てを受け入れた。
ソっと、その命に寄り添っていく。
二人で一人。
生きるときも……死ぬときも。
――反魂の神聖式――起動。
図の下で静かに鳴っていた世界の歯車が、一度だけ逆回転する。
時間の表皮が、薄くめくれ、そこに刻まれていた『欠落』の行を探り当てる。
抜き去られた名、センエース。
その行間に、金の墨が注ぎ直される。
薄金の靄が渦をつくる。
渦は輪へ、輪は環へ、環は柱へ。
失われていた『重さ』が、場に帰ってくる。
影が戻り、風が戻り、匂いが戻る。
世界の輪郭が、一本ずつ濃くなる。
モヤの柱の中に、まず『立ち姿』が満ちた。
息が置かれ、次に熱が宿る。
最後に、目が開いた。
「……ぷはぁ……」
センエースは己の命を再確認する。




