最終話 センエース、死す。
最終話 センエース、死す。
盾句の名残が空中で霧になり、指の間から零れ落ちる。
そして直撃。
素の肉体が、直に『無色』を浴びる。
「ずぁあああああああああああああ!!」
背骨が歌い、肺が凍り、血が止まる。
センは反射で半身を切り、照射の腹を斜めに滑らせて致命線をずらす――だが、今はもう、受け止める鎧も、受け継ぐ詩もない。
避けた分だけ、別のどこかが欠ける。
視界の色が、一枚ずつ落ちる。
音が遠のき、匂いが消える。
最後に残ったのは、拳の骨だけ。
それでも握る。
「うぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいっ!! 死んで……たまるかぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
――もう理屈は尽きて、根性だけが残った。
ゼンドートの掌は閉じない。
光は止まらない。
グン!
グググググン!
と、圧は、夏のフェスみたいに盛り上がり続ける。
「ぐぅうう! くそがぁあああああ!!」
まず、影が剥がれた。
センの足元から、黒が薄れ、床に貼りついていた輪郭が風に吹かれた灰のように散っていく。
次に、輪郭線そのものが細くなる。
指先の一本一本が、鉛筆の線に戻り、やがて紙からも消える。
肉体が消えるより先に、『在る』という事実の方が消えていく。
「絶対に……死んでやらんぞぉ……てめぇを……殺すまでは……」
叫ぶ。
必死に。
けれど、肉体がかすんでいく。
「うぎぎぎぎぃあああああああああ」
ゼンドートの照射が、またさらに、一段深く潜った。
センの拳の骨が、すっと軽くなる。
全身の重量がゼロへ寄る。
「ぐ、ぁ、あああああああああああ――――――」
落下も上昇もできない。
『落ちる先』がもう、どこにもない。
――――そして、センエースは消えた。
音は戻らない。
匂いも戻らない。
戻ってきたのは、ただ風の通り道――空白の余韻だけ。
戦場の中央に、何も残っていない。
焼痕も、血も、灰も、影すら。
毘沙門天の破片は、
はじめから存在しなかったみたいに消えた。
「……ふぅ。やっと死んだか」
ゼンドートは掌を下ろし、息をひとつだけ吐いた。
眼差しは静かで、言葉は要らないと知っている顔。
『完全消滅』。
センエースは死んだ。
ゼンドートはついにやった。
成し遂げた。
ゴキブリよりもはるかにしぶとい害獣を、
ついに駆除することができたのだ。
こんなに嬉しいことはない。
全ての世界に祝福されている気分。
こうして、世界はゼンドートによって、
完全なるゼロになりましたとさ。
めでたし、めでたし。
ここまで読んでくださった読者様へ。
本当にありがとうございました。
長く続いたセンエース神話でしたが、これにて、めでたく最終回を迎えました。
誰が何をどれだけどうしようと絶対に死ななかったあの狂気の舞い散るラスボスを、
最後の最後で、ついに、ようやく倒すことができたのです。
今日まで応援してくださったこと、絶対に忘れません。
ここまで、ずっと、本当に……本当にありがとう!!!




