204話 これはもうダメかもわからんね。
204話 これはもうダメかもわからんね。
「あかん、あかん、これ、マジでやばい!!」
圧に耐えるたび、装甲の下で筋繊維が音もなく裂ける。
手甲の内壁が『内側』から膨らみ、鉚釘が一つ、二つ、弾け飛んだ。
最後に、胸郭中央――核の留め具が、静かに、しかし決定的に外れる。
大きな音は要らなかった。
ただ、世界が一拍、軽くなった。
――意味は単純。鎧が壊れた。
「げぇ! エグゾが死んだぁああ!!」
ここで、毘沙門天が悲鳴に先んじて動く。
剣翼は残存していた三枚を即座に『逆位相回転』へ移行。
円環盾の崩壊ログを読み取り、欠損した神字を補うために自らの刃身を犠牲リングへと変換した。
刃は刃であることを捨て、縦横に走る格子へ。
縁には『反射』『減衰』『散乱』の三句が短冊のように結ばれ、中心核の代用として小さな『仮心臓』が生成される。
剣翼の影は床へ縫い付けられ、影そのものを補強材にする。
「毘沙門、がんばれ! もう、お前だけが頼りだ! 頼むから耐えてくれ! マジで頑張れ! 俺が死んでもいいのか! 俺が死んだら俺は絶滅するんだぞぉおおおおお!!」
格子は呼吸し、色のない光に合わせて目に見えない微振動を刻み、波長の山だけを叩いて潰す。
エネルギーの束は幾度も屈折し、刃先で砕かれ、格子の隙間で鈍る。
センの前面に、かろうじて『生の空洞』が保たれる。
だが、限界は早かった。
格子の交点で、ひとつ、またひとつ、符が欠ける。
緊急生成した仮心臓は本来の核ほどの耐熱を持たない。
内側で熱が回り、接合線が白く泡立って――
ビキ……ビキビキ……ッ。
嫌な音が、刃の根から立ちのぼる。
格子の一本が撓んで戻らず、別の一本に負荷が走り、連鎖する。
補修の神字は追いつかない。読み上げが崩れ、詩がどもる。
――間に合わせの骨組みが、荷重で折れ始めた。
「びしゃもぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおん!!」
欠けた剣翼が震え、残る文字列をかき集めて盾を編み直す。
しかし異次元の照射は、盾の『理屈』をひとつずつ無効化していく。
フチから白化し、芯まで痙攣し、符が読み崩れる。
神字の画が、一本、また一本、墨で塗り消されたみたいに消えた。
――毘沙門天の『心臓』が止まる。
鈍い破裂音。
円環の核が、内側から粉を噴いて潰れた。
「マジか、これぇええええええええええええ! 俺の武器、全部死んだぁあああああああああああああ!! 毘沙門まで死ぬのは流石に想定外だぁあああ! やばいぃいいい! 本格的にまずいぃいいいいいいい!」




