201話 すべては錯覚だよ。
201話 すべては錯覚だよ。
詩の反射は完全ではない。
盾は波長をわずかに外し、角度を潰し、溢れた分だけを肉体で抱きとめる。
照射が盾を舐め、背を焼いた。
「ぐぎぎぎぎぎっ!」
装甲の継ぎ目が白く泡立ち、センだけではなく推進孔も悲鳴を上げる。
……致命傷はさけたが、余波で背中が深くえぐれた。
片膝が地に触れた。
膝頭から震えが遡上し、脛骨の芯が鈍く鳴る。
鼓動が遠い。
聴覚が砂利になる。
肺の底に鉄の味。
だが、センエースは、まだ、立っていた。
……ボロボロだが、まだ戦闘を続けることができる
HPは一本の糸クズ。
計算式上では、明確に1。
食いしばった奥歯が、辛うじて命を留めた。
ふざけた話。
――ギリギリの命。
それでも生きている。
むしろ、その方が生きていると実感する。
なぜか死んでいないセンを見て、ゼンドートの瞳が細くなる。
涼しげだった顔に、初めて陰が差した。
想定外な理不尽が、ゼンドートを心底苛立たせる。
「……なんで生きている? 君のマックス生命力を大幅に超える火力を叩きこんだのだが?」
センは血をのみ、口端をつりあげた。
唇にはりついた黒い焦げを舌ではがしながら、平然を装う。
「俺の最大HP以上の攻撃をしたら俺が死ぬ……と、いつから錯覚していた?」
「その認識は錯覚ではない」
「錯覚だよ。物事はすべて、うたかたの夢でしかない。しかして、つまりは――」
「――くだらない戯言の時間稼ぎで体力回復を狙っているのか。こすい男だ……程度が知れる」
ゼンドートはしんどそうに、小さくため息を落とす。
だが吐息の温度は冷たいまま。
両掌が、またこちらを向いた。
――会話を切り捨てて次弾の準備に入る。
「悪いが、僕は忙しい。いつまでも、君のような低能に構っていられない」
両手の間に、黒い風が渦を巻く。
魔力とオーラがねじれ合い、結び目を増やしながら膨張。
――明らかに、さっきより重い大技を溜めている。
「君がゴキブリ以上にしぶといのは理解した……ならば、徹底的に、死ぬまで攻撃しよう。君が死に切るその瞬間まで、僕は攻撃をやめない……」
さらに膨らむ。
掌の間で、言語化不能の光が芽吹く。
形になる前の破壊の芽が、鼓膜の裏を押し広げる。
センは、ただ、奥歯をかみしめた。
剣翼は欠けたまま、しかし詩の回路はまだ生きている。
呼気を細く――白炎に、雷の微粒子を混ぜる。
立ち直りつつ、雷属性の防御詩へ微調整する。
(あれを受けたら……死ぬ……よなぁ……)




