199話 器用な技の応酬。
199話 器用な技の応酬。
センは舌打ちとともに、雷を遊ばせる。
「絶龍雷槍ランク39000!!」
毘沙門天を経由し、短詠で点に変え、ゼンドートの膝へ針のように撃ち込む。
脚部をぶち壊して動きを止めようとしたが、ゼンドートの膝は折れない。
代わりに角度がふっと失せ、重力のかかり方が階段状に反転。
ほとんど瞬間移動で、センの後ろ斜め上を陣取っていくゼンドート。
センの反応が遅れる。
そのスキを縫うように、『殺神位相蹴』の返しがきた。
ゼンドートのカカトが、センの肩甲骨へ、彗星のように落ちる。
「どがぁああああああああ!!」
肺がこぼれ出る錯覚。
崩れ落ちそうになった。
なんとか踏みとどまる。
推進孔が咆哮し、
「ば、爆竜閃拳!!」
突撃から、近距離で叩き込む。
火力の塊。
ゼンドートは眉ひとつ動かさず、
『センの拳の面』を半刻ねじって受けると、
そのまま因果を折り畳んで投げた。
「べへぇえええええ!!」
センの視界が天地ごと反転し、受け身が奪われる。
背中で石が砕け、コスモゾーンの金線が悲鳴を上げた。
「ぐぃいいいい! ぜ、ゼンドートさんよぉ! 小器用に、技を使うじゃねぇか! センスありまちゅねぇ!」
「弱者の煽りは、負け犬の遠吠えだと理解できないのかな?」
立ち上がるより早く、影が落ちる。
上から、またカカト――殺神天墜。
重力位相が重ねられ、面ごと押し潰す高次の圧迫。
センは剣翼を盾形に展開し、詩の反射で角度をずらそうとしたが、
――盾の上でカカトが弾け、
「ぶへうぅん!!」
衝撃波が心臓に届いた。
ノド奥で血が跳ねる。
ゼンドートは肩についた粉塵を払うみたいに手を振り、ゆるく首を回した。
息は上がらない。
笑みも浮かべない。
「ん?」
そんなゼンドートの横顔が、ふっと愉悦にほどける。
胸の奥で、『さらなる光』が灯ったのがうかがえた。
自分自身の深部で耳を澄ますような、静かな納得の色。
「もう強化はいらないのだが……そうか……。ふむ。やはり、正義の化身である僕は、完全なる勝利と栄光を求められているらしい」
空気が一段沈む。
ゼンドートの輪郭が、とろけた音を立てて精密になった。
「刮目するがいい……これが、僕の可能性だ」
圧が『重圧』から『現存』へと転じる。
「――真理道徳神化2――」
言葉は鍵。
開いた扉の向こうから、数値の奔流が溢れた。
存在値が跳ねあがる。
――215京。
――戦場の地が波打ち、
コスモゾーンの修復糸が間に合わずに金火花を散らす。
センの膝がわずかに笑った。
背の推進孔が一基、失火する。
「いや……えぇ……まだ、覚醒するの? うそだろ……か、勘弁してくれ……」




