198話 200京。
198話 200京。
ぐん、とセミディアベルの意識が揺れた。
内側から殴られた――とすぐに理解する。
胸倉を強引につかまれ、奥へ引きずり降ろされるような感覚。
(やれやれ……乱暴だねぇ)
「うるさい……貴様は、僕のブースターになればいい。ここから先は……僕だけの時間だ」
ゼンドートが一歩、前に出る。
「センエース」
名を呼ぶ声さえ研ぎ澄まされ、空気の抵抗が消える。
「もう、貴様に勝ち目はない。僕に殺されて……君は終わる」
センはアゴを引き、
「……お前がそう思うんならそうなんだろう。お前の中ではな」
「ふざけていられるのは今の内だけだ」
言葉の終わりに、拳が重なる。
地が悲鳴を上げ、天地が反転し、光と影が入れ替わる。
殴られ、殴り返す。掴み、砕き、斬り、焼く。
センは後退を拒む。
合理のない底意地。
こいつ相手に引きたくないという感情論。
爪先ひとつ分でも、前へ。
200京の圧は容赦がない。
ゼンドートは、セミディアベルの『殺神拳』を完全にコピーしていた。
……つまりは……ゼンドートの拳は、
理だけでなく『善悪』の骨格まで砕くような整合感を帯びていたのだ。
「わかるか、センエース。これが――真理道徳神化。命の終着点だ。……いや、まだだな。僕にはまだ先がある。分かる。僕は……やはり、どうしても、選ばれているらしい。誇らしくもあるが……責任感が重荷でもある。ここまでの重荷は……苦痛だな」
ごちゃごちゃと自己陶酔しているゼンドートに、センは鼻で笑う。
「……万能感は楽しいかい、ゼンドートちゃん。嬉しそうで何よりだが……お前も、いいオッサンなんだから、そろそろ中学二年生は卒業したらどうだい?」
拳が、再び、鳴った。
足音すら吸い込む静圧。
先ほどのセミディアベルとのダンスよりも、さらに激しい一幕が多重レイヤーで連打。
ゼンドートの重たい一撃をうけて、センは、
(ちっ……マジで強ぇな。カスの分際で、ちょこざいな。……どうしよう……しんど……)
ため息に揺れるセンに、
ゼンドートはうれしげに、
「全てが遅い。センエース。……君が多少強いのは理解できるが……センスを感じない。つまり、どういうことか。……君の命には価値がない」
「命に価値なんざ必要ねぇよ。無価値じゃねぇと輝かない底意地を誇りにする矜持だけが俺の全部だってバッチャがリリックをライムってた!」
そこで、踏み替えて、一拍。
センエースの心は決して折れない鋼のつぶて。
「閃拳婆沙良!!」
大げさに振りかぶり、回避を強要する拳。
……ゼンドートが一歩外へ抜けた一瞬に狙いを定め、
本命の拳をねじ込もうとする――
が、そこへ、順序のねじれが来る。
「殺神逆理」
回避より先に被弾が到着し、
頬骨の奥で金属的な音が鳴った。
センの舌が血で濡れる。




