197話 真理。
197話 真理。
「殺神逆理」
蛇みたいな左ストレートが、原因と結果の順序を撹乱させる。
回避のために動いたセンの頬――に、ダイレクトに突き刺さる拳。
「ぐぇ!!」
血しぶきが咲く。
軽く吹っ飛んだセンは、
ギリっと奥歯をかみしめながら、体勢を立て直し、
「……俺が避ける先を完全に予測した……いや、ミスディレクションか。俺の回避先を誘導したな?」
「下手な小細工だと笑うかい?」
「下手じゃなかったから笑えねぇなぁ」
互いの戦闘力は戦いの最中に磨かれ、硬さも角度も絶えず更新されていく。
セミディアベルは馴染み、慣れ、最短距離で『正解』へ収束する速さを増す。
センは削られながらも、地獄の反復で得た『現場最適』を叩き込む。
神闘の華が萌ゆる。
精緻なチキンレースの果てに……天秤はわずかに傾いた。
『センの劣勢』がほんのわずかに……しかし確かに明確になる。
拳が交わり続ける渦中――
「む……」
セミディアベルが、ふいに眉を寄せる。
胸腔の裏、鎧の奥、共鳴層のさらに向こう――何かが熱を持ち始めた。
(……この違和感は……)
同時に、内側の別人格が震える。
センエースとの死闘で経験値を得ていたのは、セミディアベルだけではない。
セミディアベルの中にいるゼンドートも、同じく――
(来る、来る、来るぅうううううううう!!)
ゼンドートの可能性が、眩しく弾けた。
センエースという異常な経験値の奔流に曝され、
セミディアベルという害意に圧迫され続けた……
そのストレスが飽和し、彼の中の『神種』が一気に萌芽する。
(うぉおおおおおおおおおおお!!)
セミディアベルの内面……ゼンドートの深層で、金色の革命が果たされる。
理論の歯車が回転数を跳ね上げ、
倫理の枠が光に融け、
意志の骨が帝龍骨として、再定義されていく。
(――真理道徳神化――)
……神化。
それは、命が倫理を越えて開花し、進化する瞬間。
外殻の光が一拍にぶり、すぐに澄む。
呼気が透明になり、存在圧は純化される。
セミディアベルと重なった器の中で、
ゼンドートの素の存在値が跳ね上がる。
――エグゾギアなしで38京。
そこへ全てのブーストが重なり、
総出力は一挙に、
――200京。
(……セミディアベル……どけ。ここからの主導権は……僕のものだ)
静かな、しかし絶対の宣言。
セミディアベルは口角だけで笑う。
「私より強くなった途端に、言葉遣いを乱暴にするとはね。品格の程度を疑うところだよ、ゼンドートくん」
次の瞬間、ぐん、とセミディアベルの意識が揺れた。




