196話 修羅×魔王=??
196話 修羅×魔王=??
剥き出しの筋繊維と、王の黒殻。
矛と盾。
暴と律。
対立する設計思想が、
アマルガムコアの中心で強引に噛み合わされる。
「――拘束条件、統一。位相、合致。象徴圧、加算。矛盾、許可」
神字が火花のように散り、毘沙門天の剣翼が輪の形で背後に展開した。
六枚の剣が円環を描き、各剣に高位の神字が刻まれていく。
鎧の継ぎ目が音を立てて閉じる。
紅と黒がひとつの金色に溶け、
推進孔が白炎と黒風を同時に吐いた。
完成。
――『エグゾギア【英雄】』。
その瞬間、戦場の圧力が裏返る。
空間の継ぎ目が一拍震えた。
センの存在値が跳ね上がり、
指先の呼吸ひとつにまで『覇気』が宿る。
その存在値――170京。
対価も同時に支払われる。
17番の体から、力の光が糸のように引き抜かれていった。
契約の鎖が音もなく移譲され、17番は肩で息をしながら、ただの観客へと堕ちる。
すべてを手に入れたセンエースと、
すべてを失った17番……
17番は自嘲するように笑った。
――今の彼は、なんの力も持たない、ただの奴隷。
だが、それでいい。
もう、17番の出番は終わっているから。
センは拳を握り、ガキっと首を鳴らした。
剣翼が低く唸り、白炎と黒風が混ざる。
「待たせたな、セミディアベル」
片腕の断面を、回復魔法で平然とふさぎながら、
セミディアベルは口角をわずかにあげる。
「……エグゾギア【英雄】か。良い名だね。ふさわしい器を与えられた気分はどうだい?」
「枯れた涙がまた湧きそうだぜ。ヒーローなんていう、ダサいポジションは柄じゃねぇ。俺はもっと、クールでウェビーでビターでワイルドな男なんだ」
軽く言葉をかわしあったのちに、
――地面が砕け、二人の姿が消えた。
次の瞬間、世界は拳の余波だけに染まる。
――170京と180京。
殴撃のたび、地面は水面のように波紋を吐き、
条件反射的に張り巡らされたコスモゾーンの特異結界が、
研ぎ澄まされた『摂理の虚糸』で自動修復されていく。
セミディアベルの『神を殺す拳』が、戦慄を斜めに滑らせて突き刺さる。
掌底ひとつで理屈の骨が軋み、肘の返しで空間の皮膜が一枚めくれる。
センは鍛え上げた拳で迎え、肩でいなし、肘で逸らし、手刀で切り返す。
「いい音だ。心が震えるよ。君はどうかな?」
挑発が落ちきる前に、センは胸骨で衝撃を潰し、ノドの底で笑う。
「その程度で震える心は程度が低いってバッチャが言ってた」
剣翼が千鳥に分裂し、コーティングされた刃が霰のように降る――『龍閃群』。
セミディアベルは腕甲で受け、一本一本を、ピアノの超絶技巧みたいに指先でずらしては、次の踏み台に変える。
そして、流れのまま――
「――殺神逆理」
蛇みたいな左ストレートが、原因と結果の順序を撹乱させる。




