195話 保険だらけの裏切り。
195話 保険だらけの裏切り。
センが、砕けた呼吸の合間に笑う。
「……いい判断だ、17番……」
――17番は、ここまで、ずっと、
『センに蹴り飛ばされて動けないふり』をしていた。
17番は、ほぼノーダメ。
それは、センが手抜かりなく手加減をしたから。
センは、17番が表返る可能性に欠片ほどの賭けを置いていた。
これまでの前提――わざとらしい失策、過剰な忠節の演技、アバターラに『魂魄交換の聖水』を回収させていた不可解。
どれも、疑えと言わんばかりの匂い立つ布石だった。
「17番……お前は、ここまでにいくつか『ミスをした』と言っていたが、本当は全部わざとだろ? お前は、俺が勝つかセミディアベルが勝つか、最後の最後まで分からないと思っていた。だから、ずっと、ギリギリの駆け引きで、コウモリをしていた。そうだろう?」
「……大事なものを守るためならなんでもする。恥も外聞もない」
17番はそう言ってから、視線をセミディアベルに戻す。
片腕を失ってなお、悠然と立つ怪物へ、明確な憎悪を向けて。
「記憶も力も体も失って……それでも、センエースは、あなたとここまで拮抗している。これはとてもすごいことだ。……セミディアベル公爵……あなたに、それが出来るとは思えない」
「やろうと思えば、できなくもないさ。ナメないでほしいね」
「……そうっすね。できるかもしれない。あなたも特別だから。だから、これは、ただの感情論。ボクはあなたが嫌いだ。あなたとゼンドートは何度も9番を殺した。最終的には、9番を守るために、あなたの足をなめることを選んだけど……本音を言えば、あなたのことを殺したいほど恨んでいる」
空気が乾く。
17番は振り返らず、影に声を落とした。
「……セン……アバターラは『アマルガムコア』も手に入れているはず。……使ってくれ。許可をだすから」
センが片眉を上げる。
「アマル……それはなんだ?」
「エグゾギアを合体させることができるパーツ。修羅と魔王を合体させるんだ。それでセミディアベルを殺せ」
――応答はセンの奥から聞こえる。
センの中に根付いたアバターラが、叫ぶように、
(もとよりそのつもりだ!)
そんな宣言の直後、
胸腔の奥で『黒金の心臓めいた核』が脈動した。
――アマルガムコア。
神字の格子が立方体の心臓に編まれ、
各面で異なる詩が明滅する。
核が開く。
短句が交差し、二つの名が呼ばれる。
『修羅OS――招請』
『魔王OS――招請』
センの背で、エグゾギア【修羅】の紅い骨格がうなり、
同時に、【魔王】の黒鉄装が低く唸って重なり合う。




