190話 プライマルトランスフォーム。
190話 プライマルトランスフォーム。
空気がひび割れ、そこから『もうひとりのセミディアベル』が、ほつれた糸をたぐるみたいに現れる。
人型――背筋はまっすぐ、笑みは余裕、瞳は氷。
最初からここにいたかのように自然で、
最初からいなかったかのように儚い。
『携帯ドラゴン・セミディアベル』の瞳孔がキュっと細くなり、ノド奥から『甘い呪の響き』が漏れる。
装甲のウロコがかすかに開閉を繰り返し、
内側の神性がカイコの綿毛みたいに舞った。
「――プライマルトランスフォーム・モード-ディアベル――」
その宣言は、確かな鍵。
次の瞬間、『携帯ドラゴン・セミディアベル』が『流体金属じみた質感』へと融け、『光の糸束』となって『人型のセミディアベル』を強引に包み込む。
肩から鎖骨、胸郭、腰椎――骨格の地図に沿って、
龍の装甲が『装着』ではなく『生着』していく。
#MERGE_BEGIN
#KERNEL_BIND: 成功
#ACCESS_GRANTED/OWNER: Diavel
#MERGE_COMPLETE
視界に立つのは――セミディアベルを鎧にしたセミディアベル。
人型の優雅なラインの上に、龍の意匠が重なり、
関節ごとに『歪な龍紋のパネル』が一定のリズムで呼吸を繰り返す。
「むちゃくちゃすぎない?」
センエースが呆れ混じりに吐く。
『セミディアベル×セミディアベル』は、
ヘルムの隙間で目を細め、ただ愉快そうに肩をすくめた。
「存在値は……150京ぐらいかな」
「簡単に言ってくれるぜ……指先でポチポチするだけで、無限に強くなるんじゃねぇよ、くそが」
「ちなみに、戦闘力もかなり底上げされているよ」
「やりたい放題も、そこまでいけばもはやアートだな。どこまでいっても、前衛芸術の枠から飛び出すことは出来ないのが玉に瑕だが」
言葉をかわすのは、そこまでだった。
互いに、本気の睨みを交わす。
気づいた時には二人の姿が消えている。
――地面が低く唸った。
鎧化したセミディアベルの足元に、赤黒いノイズの亀裂が走る。
圧は一段上がり、風が後退する。
次の瞬間、音が消えた。
セミディアベルが視界から抜け、影だけが遅れて残る。
背後、真横、正面――三方向同時の踏み込み。
刃のように尖ったセミディアベルの拳が、『半拍ずらした連打』で降ってくる。
回避の難易度ばかりが青天井で大暴走。
「――はやすぎて泣けるぜ」
センエースはカカトで地面をはじき、半身。
硬化させた肩でセミディアベルの一撃を滑らせ、
加速させた肘で一撃をそらし、
――残りの一撃を、
「閃拳」
全霊の拳で迎え撃つ。
バチリと火花咲く、力強い衝突。




