188話 7回も変身を残している。
188話 7回も変身を残している。
センは、煽りとともに、肩を回し、
受け流した衝撃を踏み込みへと変換する。
地面が低く唸り、靴裏が火花を散らした。
「スピードを褒めてもらえたのは嬉しいよ」
セミディアベルは、息を乱さず、さらりと応じる。
足元に残るのはかすかな残像と、遅れてくる風圧だけ。
セミディアベルはセンに向かって突進し、ニタニタしながら、拳の雨を降らす。
すべてが軽い。
けれど、無駄のない拳の線が、確実にセンの急所だけをなぞってくる。
連打を回避している中で、センはボソっと、
「はんっ。……ゼンドートが主人格だった時と大差ねぇな。死ぬほど偉そうで、引くほど強者ぶっているお前が主人格になれば、もっと圧倒的に強くなるもんだとばかり思っていたが……ハッキリいうぜ、お前弱いだろ」
「ははは、そうだね。君と比べれば、私なんて大したことないよ」
軽口。
けれど瞳は笑っていない。
視線が一瞬、センエースの踏み込み足――重心のわずかな傾きを測る。
その視線に気づいたセンは歩幅を調整。
セミディアベルは、『あらら』とばかりに一度舌を出して、また距離をとる。
「……ずいぶんと余裕じゃないか、セミディアベルさんよぉ」
「そりゃそうさ。なんせ、私には、7回分の変身が残っているからね」
指折り数える仕草さえ優雅。
指先が空を切ると、空気の肌理が変わる。
「……」
センエースは目の奥で炎を細める。
セミディアベルはニっと笑い、
乾いた指鳴らしと共に青く宣言した。
「それでは、第一の変身をみせようか」
アイテムボックスから、『黒鉄の腕輪』が取り出される。
触れた指がじくじくと灼け、謎の刻印が赤く脈動した。
「……エグゾギアを使えるのが自分だけだといつから錯覚していた? 実は、私も使えるのだよ。――『エグゾギア【混沌】』をね」
瞬間、空気が裏返る。
セミディアベル骨格の上に『ドロっとした骨格』がかぶさり、『虚理の装甲』がしとどに噛み合っていく。
関節部に埋め込まれた黒い歯車が逆回転し、亀裂から滲む光は夜色のマグマ。
背面に開いた螺旋孔が、吐息のような低い咆哮を吐いた。
静かなのに、重い。
数値では測れない不穏さが、戦場の温度を一段下げる。
「待て、セミディアベル。その強化は俺に効く。だからやめておこう。いったん、変身を解除してくれ。俺ごときを相手に大人気ないぞ。恥ずかしい」
ファントムトークの中に隠した本気の弱音。
時間稼ぎの意図を隠しもしない弱者の咆哮。




