187話 勇者の称号。
187話 勇者の称号。
セミディアベルは、楽しげに頷いた。
だがその双眸には、揺るぎない決意と戦意が宿っている。
遊戯めいた軽口の裏に、刃のような緊張感が潜んでいた。
「けれど、精一杯の抵抗はさせてもらう。たとえ敗北に終わろうとも、命を燃やした過程は無駄にはならない」
澄んだ声に揺るぎはなく、言葉は研ぎ澄まされた刃のようだった。
センエースは舌打ちし、鼻で笑う。
「俺がラスボスみたいな事言っているからって、対比とばかりに、爽やかな主役みたいなこと言ってんじゃねぇよ。この物語の主役は俺だ」
「そうかな。どちらかといえば、私の方が主役っぽいと思うのだが。君という強大な壁に立ち向かう、この勇気。勇者の称号を得てもおかしくないと思うよ」
「俺に挑む程度で、『ギガデ〇ンやベホ〇ズンを使える権利』を得られるわけねぇだろ。勇者、ナメんな」
「……ふふ」
セミディアベルの口元に、不敵な笑みが深く刻まれる。
戦場の狂風を切り裂くように、彼は指を二本立てて見せつけた。
「ちなみに……私はまだ変身を2回も残している。その意味がわかるな?」
「急に勇者からラスボスにクラスチェンジしたな。高低差ありすぎて耳キーンなるぜ」
と、下らない戯言をはさんでから、眉間にがっつりとシワを寄せて、
「……流石にハッタリだと思いたいが……だからこそ、なんだか、ガチくせぇな」
「ふふ、残念でした。嘘でーす」
「……うそ? うそってのは、なにが? 変身を残しているのがうそ? それとも――」
「実は2回じゃなくて、7回ぐらい変身を残しているんだ」
「……俺が言うのもなんだが、数字ってのは、盛ればいいってもんでもないんだぜ」
「そうだね。けど、事実は事実として伝えた方がいいだろう?」
互いの言葉が交錯するたび、戦場の空気はさらに張り詰めていく。
大気が焼けつくような緊張に覆われ、狂気すら孕んだ圧迫感が二人の間を満たしていった。
――まずは、拳で語る。
砂塵がうずを巻くより早く、セミディアベルの身体がかすんだ。
風を裂く音が二重、三重に重なり、センエースの死角から鋭い拳が突き刺さる。
センエースはわずか半歩、カカトで半円を描いて軌道を外し、
鋭い拳へ、肘を合わせて力を殺す。
反射で伸びたセンの指が、セミディアベルの喉元に触れる寸前――
――影を刻むようなステップで距離をとる風雅なセミディアベル。
センは強い目でセミディアベルを睨みつけつつ、口元には小さな笑みを浮かべて、
「スピードは相当なものだ。しかし、パンチには重さがたりないようだな」




