185話 確実にゼンドートは負けます。
185話 確実にゼンドートは負けます。
セミディアベルは、内心で小さくため息をついた。
自分自身でも呆れるほどの労力を積み上げて完成させた秘策。
けれどわかっている。
この程度では殺せない。
(……本当に、異常な男だ……)
――サイコジョーカーを背負ったセンエースの存在値は123京。
対するゼンドートは130京。
(拮抗では話にならない。確実にゼンドートは負ける。問題は負け方。それによって、次の手が変わってくる……)
――数値上は、ゼンドートが優勢。
「センエース……この差は覆らない。正義は勝つ。つまり僕は勝つ。絶対正義である僕は、罪人である貴様に絶対に負けない!」
ゼンドートが不敵に笑い、拳を構えた。
次の瞬間、戦場が爆ぜる。
拳と拳が激突し、天地が揺れる。
衝撃波が嵐のように吹き荒れ、空間そのものが悲鳴を上げた。
目にも止まらぬ連撃。
純度が違うだけの剛撃と剛撃。
「ぐっ――」
センエースの身体が大きく弾き飛ばされ、地を数百メートルも滑って抉る。
血飛沫が舞う。
だがすぐに立ち上がる。
膝を折ることすら拒む。
「……センエース! サイコジョーカーを背負っているのに、大した集中力と反応速度だ! 褒めてやろう! 僕という正義にあだなす悪にしては、それなりに有能だ!」
ゼンドートがナメた戯言をほざく。
センは、イラっとしつつも丁寧に対応し続ける。
返す拳。
センエースは踏み込みと同時に、全身をしならせて渾身の打撃を叩き込む。
大気が爆ぜ、衝撃の余波で空間が悲鳴をあげる。
「がはっ……!」
ゼンドートの胸板が陥没しかけ、巨体が吹き飛ぶ。
だが、彼もまた倒れはしない。
ギリギリのところで姿勢を制御する。
両者が同時に血を吐き、同時に地を蹴って突進。
ノックバックはいつも一瞬。
ダッシュで応える相手の拳。
――大熱戦。
鮮血以外で流血を洗う術がない。
拮抗の中で、確実にセンエースはダメージを負っていた。
額を割られ、血が片目を覆う。
腕は軋み、骨が悲鳴を上げ、肉体は既に限界を超えている。
それでも、その眼差しは曇らない。
灼熱のように燃え立ち、ただ前を見据えていた。
「やるじゃねぇか、ゼンドートさんよぉ……だが、泥試合の粘り方に関しては、俺の右に出るものはいないぜ。このままズルズルと、俺が勝つまで粘らせてもらう」
荒れ狂う暴風の中で、センエースは一歩踏み込み、再び拳を握った。
その拳は血で濡れ、骨が軋んでいた。
だが、それでも砕けぬ意志を宿した拳だった。
――このままなら押し切れる。
センエースの勝利は揺るがない。
戦場の空気は確かにそう告げていた。




