181話 なんでもありの代償。
181話 なんでもありの代償。
――サイコジョーカー、起動。
吹き上がる魔力は爆炎そのもの。
熱風となって押し寄せ、視界を焼き尽くす。
数値の桁が膨張し、存在そのものが膨れ上がっていく様が、根源的恐怖を刻む。
「ぐ……はぁ、ああああっ……!」
裂けるような叫びとともに、ゼンドートのオーラが拡散する。
地面が砕け、空気そのものが大いに震えた。
肉体という器を超え、魂魄そのものが燃え盛っているかのようだった。
瞬きの間に100京を突破。
さらに120京を超え、
最終的に130京に到達した。
「……す、素晴らしい力。これなら、センエースを超えている」
恍惚と呟くゼンドート。
その意識の奥で、冷笑と共にセミディアベル公爵の声が響く。
(それだけじゃないよ。――センエースを見てごらん)
促されるまま視線を移す。
そこにいたセンエースは、わずかに顔を歪め、額に汗を浮かべていた。
強靭な肉体と精神を誇るはずの男が、明確に苦しみに蝕まれている。
自分の身体の異変に震えながら、センエースはボソっと呟く。
「ん……これは……サイコジョーカーの……苦しみ……? なんで……」
膝がわずかに折れ、荒い呼吸の合間に苦悶が滲む。
堅牢だった姿勢が揺らぎ、その表情に人間的な脆さが覗いた。
セミディアベル公爵はゼンドートの中で愉快そうに嗤った。
(サイコジョーカーの恩恵だけを私が吸い上げ、代償である『苦痛』の部分だけをセンエースに押し付けた。どうだい、悪辣にして非凡な、非常に美しいプランだろう?)
「……えぐすぎる……こんなことが出来ていいのか……本当に、なんでもありすぎる……」
ゼンドートですら、震えを含んだ声を漏らす。
その瞳に、明確な畏怖が走っていた。
――センエースは額を押さえ、
奥歯を噛みしめ、
うねる痛みに耐えながら吐き出した。
「サイコジョーカーを使っているのは……向こうのはずなのに……なぜ、俺が苦しんでいる……意味がわからん――」
そこでゼンドートが、冷静に言葉を差し挟む。
「……セミディアベル公爵が言うには、君にサイコジョーカーの代償を押し付けているとのことだ」
「はぁ? え、それで、お前は強くなってんの? 俺が苦しんで、お前が強くなる? アホか。そんなこと許されてたまるか。ルールもへったくれもねぇじゃねぇか――」
「僕もそう思う。だが……セミディアベル公爵なら、ありえないことを平然とやってのける」
「…………」
沈黙ののち、センエースはゆっくりと顔を上げた。
ぎらりと光を帯びる双眸が理不尽を睨みつける。




