177話 俺みたいな普通の一般人にできることはたかが知れている。
177話 俺みたいな普通の一般人にできることはたかが知れている。
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「――たかが9兆年の重力など、俺には何も感じない」
「……そんなわけがないことは、君自身が一番よくわかっているはずなのにね」
「俺の感情を勝手に判定して憐れんでんじゃねぇよ、カス」
そう言ってから、チケットを雑に破り捨てた。
ビリッと音が鳴った瞬間――
破片は瘴気をまき散らしながら光へと溶け、空間に亀裂を走らせた。
床から白煙が立ちのぼり、世界そのものが悲鳴を上げる。
「上限を1000兆年に変更しろ。そうすりゃ、ホッペにチューしてやるぜ。……いい嫌味だ。なかなか有能なAIじゃないか。……俺が望むのは、もちろん上限の9兆年だ。それ以外の選択肢はありえない」
はた目には完全にイっちゃっている人。
一人で自由に会話をこなす。
「誰に言ってんだ」
――センが、一人で、つぶやいている様子を、
すこし離れたところから、『裏切り者の17番』が黙って観察していた。
内側から見るソウルゲートと、外側から見るソウルゲートを比較する。
センの中にいた時は、まだ、ソウルゲートが開く感覚が分かったが、
外から見ていると、センがぶつぶつ言っているだけでなんの変化も起きていない。
「ここだけ切り取ると、ただのやべぇやつだね……」
ボソっとそう言ったのに対し、
セミディアベルがニタニタ笑いながら、
「いつ、どのタイミングを切り取っても、異常にヤバい奴だよ。彼は、そういう男だ」
と物知り顔で、そう言った。
視線の先でセンの身体が一瞬ブレた。
と、思った直後のこと。
センが、
「……あ、終わりか。短いねぇ、9兆年。……全然、足りねぇわ」
ブツブツと、そういいながら、一度だけ周囲を確認する。
見た目には特に変化はない。
多少、筋肉質になった気がしないでもないが、
『……気のせいかもしれない』というレベルにとどまる。
ただ一つ、決定的に違うのは、センエースから感じる圧力。
その立ち姿は変わらないはずなのに、
呼吸ひとつ、まばたきひとつに、
『さらなる重み』が溢れ出ていた。
17番は、センに、
「マジで、また9兆年を積んできたの?」
そう問いかけると、
センは、17番に視線を向けて、
「そんなワケないだろ。俺みたいな普通の一般人が、そんな膨大な時間を過ごして正気を保てるわけがないじゃないか。バカだなぁ」
「普通の一般人なら無理だけどね。君はそうじゃないから」
「俺はどこにでもいる量産型汎用一般人だ。それ以上でも、それ以下でもない。だから、ビビる必要は一切ない」




