173話 運命論の過負荷。
173話 運命論の過負荷。
『素体融合――強制開始』
硬質なシステム音声が、まるで血を吐くように断続的に鳴り響く。
『死鬼回路外骨格――簡易構築完了』
気付けばセンは、『修羅』を纏っていた。
それは『魔王』の重厚な鎧とは違い、極端に削ぎ落された装甲。
胸から腰にかけては鋼片のようなメタルフレームが浮遊するだけで、
その隙間からは常に煮えたぎる赤黒の筋肉と、灼熱の火線がむき出しになっていた。
頭部は角も兜も持たず、頭蓋骨を削ぎ落としたような裸の形状。
眼窩には六つの光点が燃え、むき出しの顎が『喰らう』ために上下し続ける。
四肢は刃物めいた骨格と、細長く異様に強化された筋線維のみ。
とりわけ右腕は異形で、前腕にあたる部位が砲身と化し、常に亀裂から赤いフォトンプラズマを漏らしていた。
左腕は槍のように長く、しなるたびに大気がヒュンと鳴る。
背には羽衣も剣翼もない。
あるのは、燃え盛る炎の尾と、いびつに連なる六基の噴射孔。
それらは常に爆ぜ、灰色の舞台を焦がしながら推進力を吐き出している。
全体像は『鎧』ではなく『火力を吐き出す機械生命体』。
防御を切り捨てた分だけ、放射される熱量と攻撃特化の異形は、
ただ立っているだけで、灼熱の戦場を再現していた。
サイズは人間よりわずかに大きい2メートル弱――
だが発散する熱と殺気は、十数メートルの火炎巨神を幻視させるほどだった。
『AEGシステム強制最適化――
臨時アルゴリズム展開……防御プロトコル省略。
火力出力ライン優先構築。
伏素構成カイゾロイド・アクチュエーター、熱暴走許容値へ移行。
アルモニーモンド・ピット――制御制限解除。
レッド=コロナ=フォトン、全弁開放――
――修羅戦闘形態、過負荷モード、起動』
脳内に響くのは、ぎりぎりの機械音声。
それは『最適化』ではなく『破滅の加速』。
次の瞬間、全身の裂け目から、ドシュウウと血煙のような蒸気と赤炎が吹き上がる。
重厚さはない。
その代わり、あらゆる部位が『攻撃のためだけ』に研ぎ澄まされていた。
――世界を守るためではない。
――ただ修羅として戦い続けるための、火力特化の異形。
『エグゾギア【修羅】』を纏ったセンは、エルファに向かい、右腕を突き出す。
「オーダー:Override_Limit(ALL)――『限界を超えて舞え』。オプション:MULTI_THREAD(DOUBLE)、OVERCLOCK(BURST)KERNEL_PATCH: UNSAFE」
瞬間、舞台全体に赤いエラーログが降り注いだ。
#BUFFER_OVERFLOW Detected
#ACCESS_VIOLATION
#STACK_DUMP>> 0xFFFFF
#SIGSEGV Handler: Bypassed
『警告:システム不整合――セーフガード解除。再構築プロセス失敗。バグ挙動を維持しますか?』
「YES一択だぜ、マイスイートハニー」




