171話 たかが???の重力など、俺には何も感じない。
171話 たかが???の重力など、俺には何も感じない。
(さすがだぜ、アバターラさん! お前は出来る子だと、俺は最初から分かっていた!)
(……手の平ェ)
(で、その神器ってのは?)
(一つは、『エグゾギア【修羅】』……)
(エグゾギアを持ってんのか?!)
(あまり経験値を稼げていないから、17番が使っている『エグゾギア【魔王】』と比べるとかなり弱いけどな)
(それで?! もう一つは?!)
★
セミディアベルの視線の先で、
センが、アイテムボックスに手を伸ばした。
取り出したのは、黒紫と墨緑が渦を巻く、禍々しい紙片。
その様を見たセミディアベルは、ニタリと笑い、
「驚いたね。まさか、もう一枚もっているとは」
――サタンソウルゲートチケット。
アバターラが、とあるダンジョンの最奥で獲得した神器。
「もしかして……また使うつもりかい?」
セミディアベルの問いに対し、センは、チケットを両手でつかむと、
「……そりゃそうだろ。使わない理由が一個も見当たらないんだから」
「ここまで、ずっと、ほぼ休みなく駆け抜けてきて、かつ、ついさっき9兆年の旅路を終えたばかりなのだから、体力的な視点だと、使わない理由しかないと思うけれど? むしろ、ここからさらに9兆年も無理をしたら、流石に壊れちゃうんじゃないかな?」
「たかが9兆年の重力など、俺には何も感じない」
「……そんなわけがないことは、君自身が一番よくわかっているはずなのにね」
少しだけ憐みを込めた笑みを浮かべるセミディアベル。
センは、
「俺の感情を勝手に判定して憐れんでんじゃねぇよ、カス」
そう言ってから、チケットを雑に破り捨てた。
ビリッと音が鳴った瞬間――
破片は瘴気をまき散らしながら光へと溶け、空間に亀裂を走らせた。
地面から白煙が立ちのぼり、世界そのものが悲鳴を上げる。
――そこで、脳内に声が響く。
それは男か女か分からない絶妙な声音だった。
幼子の囁きにも、神の宣告にも、悪魔の嘲笑にも聞こえる多重音声。
『0秒で、好きなだけ修行できる空間に連れていってあげる。その空間では、どれだけの時間を使っても、外の経過時間は0。さあ、何年修行したい? 好きな時間を言って。上限は9兆年。ただし、精神が崩壊したら灰になるから、選ぶ時間は慎重にね。一度決めて中に入ったら変更はできないよ』
センは、食い気味に、
「上限を1000兆年に変更しろ。そうすりゃ、ホッペにチューしてやるぜ」
『非常に魅力的な提案ですが、上限は変更できません』




