166話 経験なんか、どうとでもなる。
166話 経験なんか、どうとでもなる。
「無限に強くなられたら、流石にきつくない? ま、もう、どうでもいいけどね」
17番はわずかに肩をすくめると、セミディアベルに視線を移す。
「預けておいた経験値、返してもらえます? 別に、もういらないと言えばいらないんですけど」
「もちろん返すとも」
セミディアベルは柔らかく笑みを浮かべ、懐から別の端末を取り出した。
それは『G‐クリエイション・蝉』とは違う異物。
石板のように厚く、画面は液体のように蠢く。
触れる前から数列が泡立って浮かび上がっていた。
刻まれた銘は『数魔』。
そこで、17番は、センに、
「ごめんね、センエース。『タイムリープで溜めた経験値はロストした』って言ったけど、本当は、セミディアベル公爵にあずかってもらっていたんだ」
17番は指を滑らせる。
液体のような画面が波打ち、そこから数値の奔流が溢れだし、再び彼の体に注ぎ込まれていった。
重力が変わるかのような圧力。
細胞ひとつひとつに火が灯る。
「あれ? なんか……めちゃくちゃ強くなってる……存在値108京? え、なんで、こんなに強く……」
驚きに声を震わせる17番。
その横で、セミディアベルは片手を振りながら飄々と告げる。
「私の『G‐クリエイション・蝉』で、君が貯めた経験値を893兆倍にしておいたよ。犬になってくれたサービスでね」
「……どうも」
108京。
桁外れの強さ。
本来なら歓喜に打ち震えていいはずの高み。
だが17番の胸中には、氷のような冷たさしか残らなかった。
――こんな『膨大な数値』をRPGツク○ルみたいに弄れる存在が、目の前で微笑んでいる。
その事実が、喜びを押し潰し、
背骨の奥にまで冷たい恐怖を走らせていた。
(こんなことがサクっと出来るということは……セミディアベル公爵の本当の力は、この数値以上だということ。現時点でのセミディアベル公爵の出力は30京だけど、本気を出せば、108京よりももっと上なのは確実。……勝てないな、絶対に。少なくとも、ボクでは……)
そこで、セミディアベルが、
霊体センエースに、
「さあ、どうする、センエース。……君の相手は、存在値30京の私と、存在値30京のゼンドートくんと、存在値108京の17番くんだ。対する君は、存在値0と言ってもいい霊体状態。……大変だね。心中お察しするよ」
「……」
「ここまで絶望的な状況になると……普通は、絶対に諦めるよね。この状態で諦めない人とかいるのかな? いないよね。だって、無理だもんね。どう考えても、さ」
「そうだな……」




